「はい!毎度 いつもありがとね シンちゃん!」
そう満面の笑みを浮かべて野菜を差し出すおばちゃんに、小さく頭を下げて礼を言う。
サービスしてもらったおかげで、パンパンに膨らんだエコバッグ。
それを両手にぶら下げて、日差しの強い午後の道に踏み出した。

何度か通ったこの道に・・・ようやく愛着が湧いてきた。
いつも帰るあの家の場所も・・ようやく間違えずにたどり着けるようになった。

この町の人々の顔も…常連になりつつある商店街のおばちゃんも、スーパーマーケットの店員の顔もようやく一致してきた…。



それなのに―――



どうして『懐かしい想い』がしないのだろう・・・・。




そう 晴れ渡った空を見上げた・・・




■青き風 紅の椿 ■



眼の前に広がった光景に・・溜息と青筋が浮かぶのを止められない。
ジャンプを顔面に置いたまま、だらしなく垂れている手足・・。
ぐうたらと寝そべるその男は、『まるで駄目な男』 としか呼べないような姿だ・・。


はっきりいって・・今は昼間だ。
いい大人がこのように寝そべっている時間ではない。

「銀さん・・・!起きてください!!」

「・・・ん・・・〜」

「起きろ!マダオ!」

そうジャンプをひったくると、死んだ魚のような眼がこちらを向いた。

「・・・あ〜・・・どうした?」
「どうしたもこうしたもねーんだよ!今何時だと思ってんだ!!」
そうまくしたてると、男はのそりと起き上がりそのクルンクルンの猫っ毛を撫でた。
「・・・あ〜・・中途半端に起きたから 駄目だわ・・だるいわ」

そう凄まじく覇気のない赤茶色の瞳がどよんとこちらを見る。

「だからシンちゃん・・・チュウして」
「『だから』って・・その意味がわかんねーんだよ」

そう絶対零度の視線で突き刺す。――すると

「その顔・・・すげぇ好き」

とトロンと言われ、ぞわぁあああああああ!!と全身鳥肌がたつ。

「気持ち悪ぃんだよ!!変態!いい加減にしろよ!訴えるぞ!」
「その顔も好き。シンちゃん怒るとソソルよね?」

にやりと笑うその憎たらしい顔を見て・・・ついにうんざりと肩を落とした。
いちいち突っ込んでいてもきりがない。この男は天性の変態ドs!まともに相手するだけ無駄だともう学んだはずだ!!
そうなんとか気持ちを落ち着かせて、くるりと背を向け台所へ行こうとした。
すると―――

「・・・・・なにその袋」

どんよりとした赤茶色の眼が握っていた袋を見た。

「・・・なに・・って今日のご飯ですよ。」
「いやさ・・・そうじゃなくて」

赤茶色の眼がどんよりとしたままその袋を見る。

「ああ・・これですか?おばさんがおまけしてくれたんですよ!よかったですね!今日はおいしい野菜炒めにしますから」

そうちょっと得意げに言うが、

「いやいや・・そうじゃなくて」

と先ほどより、低い声がした。

――そうじゃなくて・・ってなんだよ・・・?と内心突っ込みつつ視線を戻すと、微かにドキリとした。

先程まで死んだ魚のような色をしていたその赤茶色の眼が・・・険しい色を浮かべていたからだ。

「お前・・『一人』で行ったわけ?」

そう静かに、だが低く言われた言葉に ポカンとする。
だが反応する間もなく 更に強い声が続いた。

「俺・・言ったよな『一人』で出かけるなって・・。外に出る時は、俺か神楽と一緒じゃないとダメだって」

赤茶色の眼が更に険しさを増し、その無気力な顔が今までにない感情を浮かべる。

「・・え・・あ・・〜確かにそう言われましたけど、でもボクは子供じゃないんですよ?それに・・・」
だが言葉を遮るかのように、突如凄まじい力で腕を握られた。

「約束守れよ・・・。」

そうはっきりと・・・強く言われた言葉に思わず押し黙った。

しかし赤茶色の瞳は・・『肯定』の言葉を待っている。



――素直に頷くのは癪だと思った。
自分は16歳だ…。
保護者がいなければ危険があるような年齢じゃない・・。――なにより出かける時にはいつも保護者がいるなんてかっこ悪い…。


―でも・・。

確かに自分の置かれた今の境遇は――普通じゃない。




「・・・ボクが・・『記憶喪失』だからですか・・・?」




そう ぶっきらぼうに問うと、すぐに大きく頷かれた。

「そう・・・シンちゃんは記憶喪失だし、あげくに『美少女』だからあぶねぇの。
だいたい何にも思い出さないそんな状態でフラフラしてみろ!変態さんにあっちゅうまに攫われるわ!!
世の中とんでもないド変態やロリコンやショタコンやオタクがもう平気でゴロゴロいんのよ!
あっどうも!なんて挨拶した相手が『ハンター』ってことが日常茶飯事にあんの!
考えただけで恐ろしいわ!シンちゃんが心配でたまらんわ!
だから出かけるときは 銀さんか神楽がいなきゃダメ!一人でふらふらしたりした絶対に駄目だからな!
いいか〜!これから何がっても俺達に黙って一人で行動するな!フラフラするな!出歩くな!約束だからな!」

「・・ボク 『男』なんですけど」

そう一気に捲し立てた男を凄まじく冷めた視線で見ると その視線を受け止めた男が にやりと笑う。



「―――だから余計に心配なの シンちゃんツンデレだから!今それすんごく流行りだから!ちなみに俺もメロメロだから!」



**



―――記憶喪失

よく漫画やドラマであるような話だが…実際に身に起これば笑い事では済まなかった。



―――気が付いた時…そこは薄汚れた部屋のベッドの上だった。
静かな部屋…。小さな窓に茶色のカーテン。
そして古い灰色の机に飾られた 一輪の白いバラの花…。


そして 聴こえる―――心音を図る 機械の音・・・。


それが 全てだった。


呆然と薄汚れた天井を見つめ・・・それから むくりと起き上がる。

すると ズキリ――と頭に鈍い痛みが走った。
だが不思議なことに身体は全く痛まない…。

ズキズキと痛む頭に無意識に触れるとやはりズキリと痛む。
そしてその痛みを象徴するように包帯がグルグルに巻かれているのがわかった・。


ぼんやりと周りを見渡す…。
だが よく見えない・・・。

数秒後に視界がぼやけているのは 眼鏡を掛けていないせいだ・・・と理解した。

見えにくい世界の中で、手探りで眼鏡を探して掛ける。
ようやくクリアに見えた世界で、ふと何かに惹かれて視線をずらすとそこには晴れ渡った空が見えた…。

同時に 賑やかな騒音が聞こえる・・。
病院にしては珍しい…と思った。


そんな時、 不意にドアが開く音がして視線を戻した。

そして・・・きょとんとした。


そこには呆然と立つ 銀色の髪をした男がいた。


長身の男だ…。着物とズボンを合わせた奇妙な格好をしている。
眼を惹いたのはまるで白髪のような銀色の髪・・。それもクルクルの天然パーマ…。

そんな男は、赤茶色の眼を見開いて呆然とこちらを見ていた。
その人物を見て・・・何も言えなかった。

―――知らない人だったから。


銀色の髪をした男は、硬直した表情のまま近づいてきた。

しかし―――その口が開かれる前に 


「・・・あなた・・誰ですか?」


そう問うと、男は目に見えて 呆然としていた。

――だが・・・暫くして


「・・・何それ・・・?まさか覚えてねぇのか?」

そうどこか 信じられないような・・・だが何かを期待するような震える声で問うてきた。


その問いに 正直にこくりとうなずいた・・・。
――そうして・・・漸く気づいた。



そう 覚えていない・・・。


この男の事・・・――そして・・・『自分の事』も。



あれ・・・?と思わず包帯を触った。


呆然としたまま視線向けると、そこには鏡が置いてあった。

そこには、一人の少年が映っていた。
黒髪に眼鏡…。色白で眼が大きい…地味な容姿。


・・・これ・・・誰?


鏡の中の少年もポカンとした顔をしていた。
そして自分と同じ動作をした・・。


これが・・・『自分』?


・・辺り前の事なのに、すぐには納得できなかった。


そう―・・言葉通り自分からは『全て』が 消えていた・・・。



記憶も
名前も
思い出も


全てのモノが・・・。


思考回路が停止して呆然とする自分に声を掛けてきたのは・・・その銀髪の男だった。
だが男は・・思いのほか冷静のようだった。

「―――覚えてねぇの?なんにも?」

そう再度確かめるように問われて また、こくりと頷く。

「てめぇのことも・・俺の事も?」

また頷く・・・。


「・・・それって・・『記憶喪失』ってやつ?」


・・・男の言葉に・・・呆然としたまま・・・頷いた。


その・・言葉通りだった。
自分の中には何も残っていなかった。

ここはどこなのか?
どうしてここに居るのか?
この怪我はなんなのか?
この男は誰なのか?


・・・なぜか呆然と自分の手を見た。
男の割には小さな手の平…。
それはどんどんと血の気が引いていき、温度を無くしていく・・。

だがその手を突如握られた――。それは男の大きな手だった。
男の手はなぜだが酷く熱を持っていた。故に、冷えた体にその熱が浸透していくようだった。


「・・・なら話は早えぇな・・いくぞ」

・・・どこに?

と問う間もなく、男に突然抱きかかえられた。。
抗うこともできず、ただぽかんとその男を見る。

男はその視線に気がつくと、その赤茶色の眼を、酷く優し気に細めた。
だが何も言わず、大股で歩き出した・・・。


――その間・・・酷く熱い男の体温が、体に染み込んできた・・・。


何もかも強烈過ぎて 一度に入ってきた様々な情報に脳が追い付かず
次第に意識がまた混濁してきた。


―――そして気が付いた時には、また眠りに落ちていた。


***



どれほど眠っていたのかはわからない・・・。
再び眼を開いた時には・・・見慣れぬ部屋にいた・・。

また眼鏡が外されていた為、ぼんやりとした視界が広がる。
背中から伝わる感触で、どうやら薄い布団に寝かされているらしいことはわかった。

だが 起き上がる前に・・・。

「あっ起きたアル!」

そう甲高い元気のいい声が聞こえ、同時に青い大きな眼がこちらを覗きこんできた。

肌がとても白い子だ…。そして不思議な髪の色をしている。
ぽかーんとそれを見ていると、

「銀ちゃ〜ん起きたアル!!」


・・・・・『アル』?なに?それ・・・なにキャラ?

そう瞬きするまもなく、ぬっと現れた顔に視界を塞がれる。
視界いっぱいに見えた死んだ魚のような赤茶色の眼・・・。無気力な顔―――銀髪・・。

「・・・ようやくお目覚めか?気分はどうだ?」

そう問われて眼をぱちくりとする。
―――状況が把握できなかった。――がそれ以前に、この男の顔が思考を激しく邪魔する。

「・・あの・・・近いんですけど」

唇が触れそうなほどに顔を近づけてくる男に そうかなり引いた声音で言い放つとその近い顔がにやりと笑む。

その得体のしれない笑みが、なんだかすごく身に覚えがあるような気がした…。

とりあえず、覗きこまれるのは落ち着かないので、男を押しのけてむくりと起き上がった。
それから改めて二人を見た。

そして・・・ますます ポカンとする。

眼の前の二人は…奇妙な成り立ちだった。
女の子ははっきり言って中華風――。そして男はなぜか腰に木刀を差している・・・・『侍』なのだろうか?

チャイナ娘と銀髪の侍――大いに胡散臭い。



「・・・あの・・・あなた達は誰ですか?」



単刀直入にそう問うた。
すると、チャイナ娘がその青い眼を大きく見開いた。

「・・おぉ!!本当に『記憶喪失』アル!すごいね銀ちゃん!」

そうチャイナ娘がマジマジとこちらを覗きこんでくる。

「だからいっただろ?マジだって!おっまえ俺の話をど〜してそう信用しないわけ?え?」

そうチャイナ娘を睨みつけながら、銀髪の男は猫っ毛を撫でつける。

「そんなんだからお前はいつまでたっても貧乏くさい酢昆布娘なんだよ・・たくっ!だいたいよぉ・・」
「へ〜・・・見た目は全然変わらないアル 不思議ネ」

男の言葉など清々しいほどに無視したチャイナ娘は、更にマジマジとこちらを覗きこんできた。


――え…?・・何この人たち

本気でそうツッコンだ・・・。


いろいろなドラマや漫画の題材に使われる―――『記憶喪失』
だが・・・こんな反応をする者がいただろうか・・・?

ここはもっと『どうしたの?俺がわからないのか!冗談だろ!!』みたいに取り乱すシーンではないのか・・・?

だが この二人ときたら、まったくそのような素振りを見せない。

「・・あの・・あんた達・・・一体何なんですか?」

しょうがないから自分からドラマのような台詞でそう尋ねる。

「・・・あの、ボクが言うのも変なんですけど・・・こういう時もっとこう・・驚いたり心配したりするもんじゃないんですか?」

すると二つの視線がマジマジと顔を覗きこんでくる。

「え・・?そうなの?そうなのか?神楽?」
「さぁ・・あっでも銀ちゃんの時はそうだったアル。ドラマみたいだったネ」


二人のやり取りに更にポカンとする。


・・・なに・・この人達?てか、あいつは前にも『これ』をやってたわけ?おかしくね?


呆然と二人を見ているとその顔を見た銀髪の男が 、不意ににたりと笑んだ。

「まぁ記憶がないんじゃ仕方ね〜な・・。もう一度自己紹介してやるぜ・・。」
そういった男は、ぐっと無意味に胸を張った。

「俺は・・・『坂田銀時』――通称『銀さん』! んで こちらが神楽」

「・・はぁ・・どうも」

思わずそうぺこりと頭を下げる。

「んで・・・お前は『シン』」

そう唐突に指を差されてきょとんとした。

「・・・は・・?『シン』?それが僕の名前ですか?」
「――そうネ!・・・『シン』 がお前の名前ね」

そうチャイナ娘・・・神楽がにたりと笑う。


「――あ・・・・そうなんですか『シン』・・・が僕の・・名前」

そう独り言のように呟いた・・・。


自分の名前のはずなのに・・・『シン』という響きが何処か遠い気がした・・。―――なのに何故か身に覚えがある気もした。


「――・・で・・・『名字』は・・・?」

そう問うと

「・・え?シンちゃんに名字なんかあったっけ?神楽ぁ?」
そう頭を掻きながら気だるそうに問う男・・・銀時に

「え・・知らないアル シンはシンね・・・眼鏡の駄目シンだったアル」
とほじほじと鼻を穿りながら返す神楽・・・。


眼鏡・・・関係なくね?


と思いつつ・・・またマジマジとこの二人組を見た。


『名字』が無いなんてこと・・あるのだろうか?
このご時世で・・・。

てか・・『名字』がないということは・・なんとなく漠然とした『暗さ』を感じさせる・・。
ドラマの見すぎかも知れないが・・『名字』が無い奴はかなりの確率で『ヤバイ』過去を持つ設定だ…。

―――自分はそんなに暗い過去を持っている設定のキャラだったのだろうか?


でも・・こんな容姿で?

と悲しくも自分自身に問う。

暗く悲しい顔を持つほど・・・なんというか・・・素敵な外見をしていない…。



とにもかくにも・・――−これだけははっきりしときたいと思い 二人を見上げる。


「失礼ですけど・・・あんた達とボクと・・なんの関係が」

その質問に、銀髪の男が『信じられない』といった顔をした。


「え・・??それこそ失礼じゃネ?・・・どうゆうこと?」

「いや・・その・・すんませんけど・・いろいろ胡散臭すぎて」

そうじとっと男を睨みつけると・・

「・・・あのさぁ・・・俺一応『君の上司』・・そして君は俺の『部下』」
「はぁ・・・?」

銀時の言葉に、心底訳が分からず思わずその顔を凝視した・・。

この・・無気力で死んだ魚の眼をしたような男が・・・『上司』?


「・・・俺は何でもやる商売『何でも屋:』やってんだ・・。んでこのかっこいい俺に惚れてシンちゃんが入社して」


―――ありえねぇ・・・

そう瞬時に思う。

前半はともかく・・・後半はあり得ない・・。
命を掛けてもいい・・。

しかもなんだ・・・この胡散臭い設定は?

『何でも屋』?
こんなご時世でそんなもん商売になるのか・・・?


不信感が隠せず顔に出る。

「・・・『何でも屋』・・・?あんたが上司で?」
「そう。んでシンちゃんは俺の為に料理を作ったり、俺の為に掃除をしたり、俺の為に一緒に寝たりしてたの!」
「・・・・・」


うさんくさい・・・激しく胡散臭い。
だが――嫌な事に・・・奇妙な懐かしさがあるのはなぜだろう?


返答できずに モゴモゴと口ごもる姿を赤茶色の眼がじぃ〜と見ている。
それから にやあぁ・・・と笑う。



「つ〜わけでよろしくな 『新たな生活』を楽しもうじゃないの!シンちゃんv」


**




そして 『あの日』から銀時と神楽。
いつの間にやらちゃっかりと居座っていた巨大な犬 定春と奇妙な共同生活が始まった。


時間が経つに連れて、銀時がダメ人間の他に 変態でドS体質だということ。
そして神楽は可愛い顔をしながら 毒舌のS体質で怪力だということ。
二人共基本的に俺様主義で他人の事など気にせず 勝手気ままに生きていること。
ハッキリ言って常識が大幅に欠けた最低最悪な人種であること・・などを認識した。


不思議なことに、この生活に慣れるには時間は掛からなかった。
銀時を叱るのも神楽をたしなめるの、定春にビクビクするのも・・・どこかしっくりとくる。
二人に対しての『遠慮』や『人見知り』など、あっという間に吹き飛んで、あっさりと自分を曝け出せるこの三人の空気は
どこか心地よく・・どこかくすぐったく・・やはり『懐かしい』という言葉に尽きた。

そう―――今は特に不便なこともなく生活している。


―――記憶が無いこと以外は・・・。



でも、なんかおかしくない?

そう少年・・・『シン』は、内心首を傾げる。



ドタバタと日々が過ぎて、いつの間にかこの生活に馴染んでしまったけれど
『記憶喪失』というのは・・・こんな簡単にすまされるモノなのだろうか?


――いやいや 違うにきまっている!

そう、思えてしまうのは、同居人のあの二人の反応が…あまりにも『普通』すぎるからなのだろう。


現にシンは・・・生活に慣れ、心に余裕ができるほど いろいろな疑問点が脳裏を駆け廻り始めていた。


――何かがおかしい。
おかしくない事が・・・―――おかしい。



今住んでいる家にしてもそうだった…。

シン達3人が暮らしているのは町はずれにあるオンボロ家。


今でこそ家具もそろい、生活の匂いがあるものの・・・シンが初めて来た時、ここは文字通り廃墟のような家だった。
机はおろか椅子さえない。あったのはシンが寝ていた布団だけだった。

…当時この家には『人が生活している匂い』が無かった・・・


最初は疑問に思う暇も余裕も無かったけれど、改めて考えてみるとおかしな話だ。

何よりも、この家はシンになんの『懐かしさ』も与えなかった。
文字通り…知らない家。

ここで商売をしていたと銀時は言うけれど、記憶を呼び覚ますような懐かしさが微塵も無い。
それどころか…人が生活していた匂いすら残っていない。

意味が分からず銀時や神楽に聞いてみると、
『あんだおめぇ?そんな小さいこと気にしてんの?』

そうはぁ〜とため息をついた後、銀時がのらりくらりと笑う。
『・・俺達『何でも屋』だろ?だから住む所とか結構転々としてんだよ』

その答えにどこかで納得しつつ、それでも奇妙な違和感を覚えたのを今でも覚えている。


だがそんなシンを余所に、数日すると・・・銀時がいろいろな家具を入れ始めた。
食卓用の机。布団 イス…。
何処で調達してきたのか知らないが一通りの生活用品が揃えられた。

―――だが不思議なことに テレビだけはいつになっても揃える気配が無かった。


それを何故か?と尋ねると

『あのね・・シンちゃん!テレビは高いの!そんな余裕は家にはねぇの!』

そうどんよりとした眼で言われて そこに妙な説得感を感じてはぁ・・と頷くしなかった。


確かに――お金は無い。
銀時は『何でも屋』をしていると言っていたが、それがどんな商売なのかシンは知らない。
聞いても曖昧にされてしまうから、シンも深くは聞かないようになっていた。
だが―――銀時はいつもふらりと出掛けては・・どこかで金を稼いでいるようだった。


懐かしさがない『家』
胡散臭い『商売』

それらも確かに疑問の一つだったが

なにより不思議なことは、銀時も神楽もシンが過去を『思い出さない事』を少しも気に掛けない事だった。


「思い出せないもんはしょ〜がね〜だろ?もっと前をみて生きていきなさいシンちゃん」
「そ〜アル!過去なんて振り返らないものネ」

二人はそう 驚くほどあっけらかんと言う。


でも・・あんた達のことまるまる忘れているんですけど・・。?

と思うのだが、二人ともまったく気にしていないようだった。

まるで気にしてるこっちが変だと思えるくらい、実に清々しい程に・・・。



だけど・・シンにはいつでも・・『奇妙』な『違和感』が纏いつく。
二人がそれに応えてくれないから、その違和感は体の奥に張り付いて離れなかった。


『記憶が無い』ということは・・・今までの『思い出』が全て消えることだ。
今まで出会って人も自分の人生も、今まで何を感じ何を思ったかも・・・全てが白紙に戻る。

だからから当たり前だと言われれば そうなのかもしれないけど・・・。
シンには銀時と神楽 定春以外に―――懐かしいと思える相手が一人も存在しなかった。


それが・・『奇妙な違和感』として シンに付きまとう。


だって、どんなに記憶がなくなっても・・・銀時や神楽には言葉に出来ない『懐かしさ』があった。
それは言葉では表す事が出来ない 感情だ。
確かにシンは二人の事を覚えていないが、それでも心が・・・体が・・・二人の事を覚えている。

だが――二人しか居ないのだ。その『懐かしさ』を感じる人が。


銀時はこの町で商売をしていると言った。
だからシンもここに居た事があるはずだ・・・。



例えば、記憶を無くす以前だって買い物はしたはずだ…。
きっとご近所付き合いだって多少していただろう・・・。
それなのに・・・近隣に住む人達、八百屋の奥さん…スーパーマーケットの店員…誰一人 シンの心を揺さぶらない。
ここで生活していたはずなら、いつも通う店にしろ店員にしろ 少しは記憶に残っているものではないだろうか・・・?

・・・なのに、まるで初めて訪れた場所のように・・・なんの思い出も蘇らない。


それと同じく・・シンの周りには『馴染み』があるモノが存在しなかった。

買い物に行く為の道。
洗濯を干す為に見上げる空。
この家。
この町。
この――風景。

それらのなに何一つ・・シンの心を揺さぶるような懐かしさを持っていない。


それは・・・何故なのか?



そして奇妙なことがもう一つあった・・・。

それはこの二人が 絶対にシンを一人で行動させないことだった。


出かける時には、いつでもどちらかがシンの傍にいた。
特に銀時はこの件に関してかなり口煩く、シンをイライラさせるほどにまとわりついた。

子供じゃありません!と言っても聞かない。
いい加減にしてください!と怒っても 聞く耳持たず。
今になっても買い物一つ 行かせてくれない。

確かに記憶が無いから心配してくれている・・――とは思うのだか、正直息が詰まった。


――そう、奇妙な違和感が常にあった。


『何でも屋』と言っているが、銀時はここで商売をしない。――そしてどんな商売をしているのかも具体的には教えてくれない。
いつでも、ふらりと何処かに出かけては、金を稼いでくる。
それは神楽も同じだった…。神楽もふらりと出掛けては、驚くほどの大金を稼いできた。
だがその内容を聞いても二人とものらりくらりと答えるだけで、真実を教えてくれることはなかった。

そして 『シンの過去』も二人は触れようとしなかった。
ドラマなどでは、こういう場合昔の思い出話を聞かせたり、写真を見せたりして記憶を取り戻そうとするものだが、二人に限ってそれは無かった。
この家には写真が一枚も無い。シンの過去を証明するものなんて一つも存在していなかった。


―――そして銀時も神楽も、特にシンの過去に執着する素振りも見せなかったから、自然とこの話題は絶えていく。

だから シンがこの話題を掘り起こさなければ、『シンが記憶喪失』という事実忘れ去られて行きそうだった・・。

まだこの生活を始めて間もない頃…シンは銀時に自分の過去を問うた事がある。


その『答え』は…


シンは幼い時に家族が死んで、寺小屋で育っていた。
そこで何があったかは知らないけど、(銀時が言うには)仕事をする銀時に憧れてこの『何でも屋』に入社…。
その後はこの『何でも屋』で主に雑務と事務処理 家事を担当。

はっきりいって漠然過ぎて分からないことだらけだ・・・が、正直自分に家族がいないという事実に寂しい分どこかほっとしていた・・・。
『家族』のことを覚えていないことも、申し訳ないし、なによりあんな形で病院を出てきてしまったのだから、
もし家族がいれば辛い思いをさせてしまうと密かに心苦しかったからだ。


なにはともあれ・・ドタバタと慌ただしくも楽しい毎日が当たり前のように過ぎて…

ある程度家具がそろい、『普通の生活』を送るようになったころ――なぜか神楽が離れて寝るようになった。;
今まではシンの腕を握り締めて、二度と離れることが無いようにとぴったりとくっついて寝ていたのに・・。

――だがその代りに、何故か銀時がシンの傍に来るようになった。

狭い布団なのに、モソモソと入ってきて、大の大人なのにぎゅっと体を抱きしめてくる。
最初はドタバタと抵抗したが、結局体力では叶わず、疲れた夜に相手にするのも面倒くさくなり、いつのまにかそのまま一緒になるようになった・・・。

そんな狭い空間で・・銀時の赤茶色の眼が じぃとこちらを見つめている時がある。

なんですか?とウンザリしながら問えば・・・
ん〜いや・・。と言葉を濁す。
ただでさえ意味の分からないこの男の相手をするのは疲れる。だからくるりと背を向けて眠りに落ちようとする。
―――それでも外されない視線。
そして抱き込まれる身体と・・・そこから伝わる熱。

――この男は熱でもあんのか?

と思うほど、銀時の体は熱い…。

あ・・でも・・これがこいつの平熱なのかもしれない・・。と思った。
逆にシンの体温が低いのだ…。ちゃんと図ったことはないけど…。


でも・・とふと脳に微かな違和感がもたげる・・。


自分を包み込む熱は・・・これほどに 熱かっただろうか・・?


否・・と何かが答える。


そう違う・・・自分を包み込んでいた熱は・・・




もっと・・・

―――もっと・・・




だがいつも思考はそこで終わる・・・。
そしてシンはそのまま深い眠りに落ちてしまうのだ・・・


**


『何でも屋』の生活は相変わらず…。
銀時と神楽がぶらりと出かけては金を稼ぎ、その間シンは家事をするというパターンを繰り返していた。

家事に勤しみながら、銀時から受け取った生活費をこまめにやりくりして帳簿に記し、家計をやりくりする。

―――おかしくない?これ?なんでボクこんなことしてんの?

そう自分に突っ込みつつも 嫌な程にすんなりとその仕事は手に馴染む。
銀時が言うとおりに、記憶を無くす以前もこの仕事をしていたと体で実感できた。


シン自身…『記憶の無いこと』事態・・・時が経つにつれて忘れて行きそうだった。
シンの傍にいる二人は・・何の違和感もなく日々過ごしていたし、まるでその二人に誘われるかのように シンも溶け込んでいってしまった。





・・・だが





―――とある日の・・晴天


洗濯物を干しながら、シンはふと空を見上げた。
そこには突き抜けるような青空が広がっており、その遥か上空に・・宇宙船が一つ浮かんでいた。



・・その――光景に・・・突如シンの眼が見開く・・・。





――・・を・・・・・見た・・・た・







突如 脳内に響いた声・・・。

だが、あまりぶも漠然とし過ぎていて その内容は思い出せない。
だけど・・・確かに誰かがそう言っていた・・・

自分に向って・・・。

そう・・・

この空を見上げて・・・そこに浮かぶたくさんの宇宙船を見て・・・そして切なそうに 何処か悔しそうに 空を見つめて・・・。



そして・・・その言葉を聞いていた自分の傍には・・・誰か――――居なかっただろうか?



いつの間にか…洗濯物を干す手が止まった。



シンはぼぅと手元を見つめた。


そう・・誰か いたような気がする…。
自分にとって とても身近な人が…。



―――でも・・・そんな筈はない。

そうシンはぎゅっと洗濯ものを握りこんだ。


だって・・・自分には『家族』がいなかった。
そう銀時は言っていた。


手元を見つめながら、シンは徐に頭を振った。



昔の記憶だと思ったが・・・―――そうとは限らない。
昔見ていたドラマの一部かもしれないし…夢の残骸だったのかもしれない…。


「・・・どうした?」

そう突如声がして、シンは驚いて振り返る。―――そこには寝ぼけ眼の銀時がいた。

「なにぼ〜としちゃってんの?」
「・・・いえ・・」

そう答えてから、不意に口ごもった。



「・・あの・・銀さん」
「ん〜?」

「・・ボクは・・・寺小屋に居たんですよね?」
「あ〜そうみたいだけど」

何の躊躇いもない答えがすぐに返ってきて シンは拍子抜けする。



「・・・なら・・いいんです」



そしてまた洗濯物を干し始めた。



「・・なに?なんで?」

「・・いえ・・なんか空を見ていたら・・・なんか」




そうシンは・・・空を見上げた・・・



**


午後・・・銀時とシンは買い物に出ていた。
今日はスーパーの特売日でトイレットペーパーが安いのだ。
銀時と作戦を練ってまるで戦いに挑むかのようにシンは道を歩く。

「ちょっとシンちゃん・・・気合入り過ぎ」
そう銀時がくつくつ笑う――がシンは笑わない。
「何言ってすか!あんたどれだけトイレットペーパーが重要かわかってねーんだよッ!
前に切らして新聞で拭いてトイレ詰まらせて、大家さんに怒られたこと忘れてないでしょうね?」

そうぎろりと睨みつけると〜『あ・・そうだっけ?』と返答が返る。『そうですよ!!てかアンタがやったの!!』と銀時を睨む。
その瞬間 その赤茶色の眼がなんとも言えない笑みを浮かべた。

「・・・可愛い」

そうぽつりと漏らされた声に、一瞬シンは固まった。
だが銀時はくつくつ笑い続けた。
「怒ってるシンちゃんの顔 最高に可愛い」

・・この男・・・一遍死んだ方がいいんじぇねぇの?

凄まじい絶対零度の視線で銀時を見ると

「うわ・・やっべ・・萌!」
うっすらと頬を染めてにやけるその顔に・・・
「・・いや・・マジでキモいんですけど・・何ですか?あんた・・・アッチ系の人ですか?」
そう僅かに距離を開けつつ聞くと
「いんや・・シンちゃん専用」
と銀時はにやりと笑った・・。



そんなこんな 下らないやり取りをしつつ・・何とかトイレットペーパーを買い込んで歩く。
収穫は9つだから大したもんだ。
両手いっぱいにビニールひもを握りこんで帰路に就く。


すでに辺りには夕暮れが迫っていた。

夕日が沈む町を見て・・・ふと足を止めた。

「・・・どうした?」

そう 銀時が振り向く・・・。そしてその赤茶色の眼を見開く・

「・・・シン・・・?」





何故なのか・・・分からない。
だが・・・止めることができなかった。

紅の夕日に・・・なぜか胸が締め付けられて ただ毀れ落ちていく。

「…シン・・」

銀時の 低い声が聞こえる。
いつの間にはトイレットペーパーを落とし、震える手で顔を覆った。

止まらない・・・。

涙が――止まらない。


「シン・・・シン」

銀時の声がして・・・体を強く抱きよせられる。

それにこたえられず、ただただ顔を覆った。

紅の色
何故かその色が酷く胸に染みた・・。

――それがなぜなのか・・?どうしてもわからない。


声を押し殺して 肩を震わせる。
銀時の熱い体温に包み込まれても 涙は止まらなかった。









町を歩いていて・・・不思議な現象に気がついた・・・。


何となくだが…背の高い人を見ると なぜか胸がドクっと唸る。
銀時も背が高いが・・・銀時と違い黒髪の男を見るとなぜか胸のあたりが奇妙に揺れた。

なによりも・・・

ふと・・シンは足を止めた。
そして思わず振り返る。
そして擦れ違った男に視線を走らせた…。

シンの視線を惹いたのは―――煙草の香りだった。


そう・・前々からなんとなく気になっていた。――煙草の香り・・・。

ここ最近禁煙ブームで、なかなか歩き煙草をしている人は見かけない。
だから珍しくて視線を惹かれるのだと・・最初はそう思っていた。

でも・・煙草を吸う男性を見る度に・・・なぜか胸の奥がざわめく。
何より不思議なことは・・・ある特定の銘柄の煙草の香りに より強く惹かれたことだった。

シンの周りで・・・煙草を吸う者はいない。
銀時だって吸わない。

なのに・・・その姿・・そしてその香りを感じる度に・・胸が締め付けられるような奇妙な懐かしさが身体を駆け巡った。




かちゃかちゃと食器を洗う。
背後では銀時がジャンプを呼んでいた。
――神楽は居ない。

神楽はこうして家にいる時間がすくなかった。
遊びたい盛りの子供だからと・・特にシンも気にしていなかった。
故に、シンは銀時とこうして二人でいることが多かった。

かちゃかちゃと・・食器を洗い吹き上げながら

「――ねぇ銀さん」

「あ〜」

カチャリと食器が音を立てる。

「・・・・・銀さんは煙草吸わないですよね?」

ぽつりと呟かれたシンの言葉。

「・・・シンちゃんは日ごろ俺の何を見ているわけ?俺は糖分はしっかり取るけどニコチンはとらねぇの」
そういつもと同じやる気の無い声で返事が返る。

「・・・そうですよね」
はは・・と笑いながらシンも頷いた。

いつもと同じだから・・このままこの会話が終わると思った。
―――だが






「・・――・なんで?」







そう銀時の声が続いた。






「・・なんでそんな事聞くの?」







ぱらりと・・・ジャンプがめくられる音が聞こえた。
だからふきあげた食器を棚にしまいながらシンは苦笑した。



「いや・・その・・・道端とかで煙草を吸ってる人を見ると・・・なんかこう・・・変な気持ちになるんです。不思議なんですけど・・・」



―――それに

と、いつのまにかシンは手を止めていた。



「・・・全部の煙草じゃないんです・・。ある銘柄の香りがすると・・・こう・・胸のあたりが・・・」

そう今でもツキンと痛みが走る胸に手を当てる。――同時にシンの眼が・・・遠いどこかを見つめようとする。



「・・・・ドクドク・・・って」


だが それが途中で遮られた。――ジャンプが床に落ちる大きな音がしたからだ。
何事かと視線を上げると、目の前に銀時が立っていた。



「・・・なにそれ?」



そう呟かれた声は、あまりに険しく強かった。





「・・なんだよ・・それ」




そう再度問われて返答する間もなく、乱暴に腕を握られる。
そこから伝わる体温は いつにもまして熱かった。


「・・ちょっと・・・なんですか?」

そう睨みつけようとして思わず言葉を噤んだ。
眼に入った銀時の顔に・・ゾッと何かが駆け抜ける・・。


険しく、別人のように強張った銀時の顔…。
見開かれる…赤茶色の眼。

噛みしめられる 唇。


――そんな銀時の姿に、何かがシンの中を駆け抜けた。


「・・・なんでなんだよ!シン」


そう 責められるように問われて、思わず身体が震えた。

赤茶色の瞳が、激しい怒りで燃えている。
何がそれほど銀時を怒らせているのか、シンにはわからない。

ドン・・と音がして、壁に押しつけられた。
視界いっぱいに銀時の顔が迫る。


「・・ちょっいい加減にしろ!・離してくださっ・・」
「―――嫌だね」

遮られた声は 今までにないほど強く 険しかった。
同時に赤茶色の眼が・すぅと細められる。


「・・ねぇキスしてよ・・」

そう 冷たく言われてカッと胃の中が熱を持つ。

「シンちゃんからキスしてよ・・。そうじゃないと永遠にこのままだぞ」


銀時がそう・・低く強く・・・囁く。

「・・いい加減にッ!」
そう怒りに顔を歪めると
「・・キスして・・シン」

そう銀時は 強く何かを堪えるように言った。

「ちょっと・・・意味分かんね・・!」
そう食ってかかる・・がその言葉を最後まで言い切ることはできなかった。
銀時に その唇を塞がれたからだった・・。


壁に押し付けられて、深く重ねられる唇。
ばたばたと暴れても、ビクともしない。
まるでその熱を注ぎこまれるように 続けられる口付け・・・。

――その瞬間 脳が揺れる。

違う
違う
違う

自分の知ってる口付けは…
自分の好きな口付けは・・・・・



何故だが胸の奥が 締め付けられるように 苦しい・・・。
何かが恋しくてたまらない・・。

でもそれが 何なのかが分からない・・・。


そしてその思考さえも許さないように 激しく繰り返される口付けは 

微かに涙の味がした・・・。




**



煙管から煙を噴きだし、女は人気の無くなった部屋を見ていた。
ここの住人だった万年金欠・・家賃を滞納しまくっていた男が消えてから・・・もう4か月になる。
部屋は当時のままだった。
何一つ変わっていない。


『糖分』と書かれた額縁・・その下に散らばる写真。

そこに映る 銀髪の男 チャイナ娘 巨大な犬・・・そして眼鏡の少年




「・・・バカな男だね・・・アイツも」


そう呟いて 女は濃いアイラインが引かれた鋭い眼を伏せた。






続く







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