―--ラインハット



外には雨が降っていた。



「…・・・――-雨か」




降りしきる雨を見つめながらそう呟いたコリンズは、ふっと楽しそうに緑色の瞳を細めた。

「―――この感じ…懐かしいな…。そうだろ クラウド」

言って振り返ると、テーブルの書類に目を通していたクラウドが目も上げずに答える。

「――なにが?」
「何がって…わからないのか?俺が初めて―――お前の『本性』を見たときだよ」

コリンズはククっと苦笑して――静かに腰掛けた。

「・…今でもはっきり覚えてるよ。『あの日』も雨が降ってたな…。お前も俺も・・・まだほんの『ガキ』だった」
「――俺は違うな・・・。お前だけ、クソガキだったよ」

クラウドが表情も変えずに言ってのけた言葉に苦笑しながら、コリンズは遠くに想いを馳せる様に微笑んだ。

「そうだな・・・確かにあの時の俺は・・・本当にバカだった。
でもそんな俺を生まれ変わらせてくれたのは『あの日』・・・お前達のおかげだよ」

****

【Your knight】

****



―――11歳の時だ。



初めてあった時から気に食わなかった。
父ヘンリーの友人から紹介された―――双子。

「初めまして・・ボクはグランバニア第一王子 クラウド」

と微笑んで初めに手を差し伸べたのは、男の方だった。

年は一つしか違わないのに、堂々としていて少しも物怖じしない。
自分を見つめて笑顔を浮かべるそいつは、伝説の勇者だと聞いた。
その証拠にか、背中には大きく、美しい剣を背負っている。


そして…


「・・・は・・・・初めまして グランバニア第一王女 アルマです」


と小さく会釈をしたのは、双子の妹アルマ王女。
兄にくらべ小動物のように頼りなげで―――どこか月の様な儚さを感じる・・・。

だが…輝く金色の髪と海色の大きな瞳。――そして真珠のように白い肌…。
そんな美しさは、生まれてから一度も見た事がなかった。

以前何処かの商人がこんな人形を売っていたのを思い出し、コリンズはむっとした。
あの人形が欲しかったのに、――――――――買ってもらえなかったからだった。

***


「コリンズ!城を案内してやれ」

ヘンリーにそう言われ、コリンズは膨れっ面をした。
―――この双子は気に入らない。
特に…アルマ王女。

初めて見た時から、コリンズの胸の中に今まで感じたことの無いものがずっと渦巻いてる。

コリンズがキッとアルマを睨むと、アルマは怯えたように視線を逸らし俯いた。

「―――王子、お城を案内していただけますか?」

だが――まるでそんなコリンズの視線からアルマを守るように、クラウドがさっとアルマを背後に隠した。
にっこりと微笑むクラウドを見て、コリンズの心は急に大きな苛立ちを感じた。

理由は分からない―――だが・・・こいつはひどく気に入らない。
コリンズはじっ―とクラウドを睨みつけ、ふんとそっぽを向いた。
だが突然 たまにある考えが浮かび 隠れてニヤリと笑う。


―――『いい事』を思いついたのだ。


「――まぁいい!俺様が案内してやる!!ついて来い!」

そう云って踵を返し、歩こうとした瞬間――――・

「アルマ・・・いくよ」

クラウドがそっと手を伸ばしアルマの小さな手を握った。――そして
「大丈夫―――怖くないよ――ボクが傍に居るから」
と彼は優しく微笑んだ。

そんなクラウドに――アルマの顔からも怯えが消える。
そんな彼女に優しく微笑むクラウドを見てコリンズはますますむっとした。

「・・・ッ!」

そんな時 アルマの海色の瞳がこちらを向いた。――そして直ぐに怯えた色を浮かべ 歩みを止める。
だが、クラウドが優しく手を引くと―――恐る恐るとついてきた。

それがなぜかコリンズの癪に障った。
何故だかわらかないが、クラウドがアルマに優しくするのを見る度に、コリンズの心がジクジク苛立つのだ。

理由は分からない――ただイライラする。
でもこのイライラがどうすれば無くなるのかわからない。
コリンズはむっつりしながら歩きだした―――。すると、それに続いてクラウドとアルマが着いてくる。


それを見ながら、コリンズは――ふと にやっと意地悪い笑みを浮かべた。


――ようやく思い出した。こいつらに『いい事』をしてやるのだ。
そう――城を案内する気なんて少しも無かった。

**
***

「―――コリンズ君 一体何処に行く気なんだ?」

城の案内をまったくせずに、だまって黙々と歩き続けるコリンズに業を煮やしたにクラウドがそう尋ねてきた。

「――うるさい!イヤなら帰れよ!」
だが、コリンズはぶっきらぼうにそう答え、 振り返りもせずにそのままずんずん歩いていく。

「―――・・・・アルマ大丈夫?」
「うん・・・・ 大丈夫」

後ろでクラウドがアルマにそう話し掛けているのが聞こえた。
それだけでなぜかコリンズの苛立ちは募る。
胸がムカムカして仕方が無い!

ピタッと足をとめ、コリンズは突然振り返った。

「・・・おいお前!」

コリンズは、クラウドを指差した。

「お前、俺の子分にしてやるから俺の部屋にある子分の証を取って来い!」

フンと鼻を鳴らすコリンズを見て、クラウドが微かに眉を潜めた。

「―――君の部屋ってここからかなり離れているんじゃないのか?――なぜ、今取りに行かなければいけないんだ?」
「うるさい!つべこべ言うなら父上に言って、二度とグランバニアと交友を持たないようにするぞ!」

コリンズはじろりとクラウドを睨み付けた。
だいたいこの脅しで、大人も子供もコリンズの言い成りだ。
困ったような顔をして…そうして自分の言う事をきく家来になる。

―――だが…クラウドの表情は変わらなかった。
特に困るようではなく、平然とした顔をしている。
それが更にコリンズを苛立たせた。


クラウドは一つ小さな溜息を落とすと、

「―――わかった。とってくるよ。―――いこうアルマ」

と、アルマの手を引いた。

だが



「まて!行くのはお前一人だ!!」


コリンズはそう叫んで、クラウドを睨み付けた。


「こいつはここにおいて置け!『人質』だ!お前が一人でいって子分の証を取って来い!」


クラウドの表情が――――一瞬でかわった。
空色の瞳が―――コリンズを冷たく睨む。

「・・・・・ッ!」

その表情にコリンズは一瞬ひるんだが、負けじと睨み返した。
このラインハットでコリンズに反抗できる奴なんかいないのだ―――。それを知っていた。

「聞こえないのか!お前一人で行くんだ!!」

コリンズの大きな声、そしてクラウドの冷たい表情を見て、アルマが困ったような顔でおろおろと二人を見た。

「―――クラウド・・あの」
「・・・・・わかった」

返答したクラウドの声は―――が低かった。

低くて小さいくせに、その声は隠しようの無い苛立ちを含んでいた。
だがコリンズは気にしない―――ここではコリンズが親分なのだ。

「ふん!初めからそう言えばいいんだよ!」
「・・・・」

コリンズは意地悪な笑みを浮かべにやりと笑うと、クラウドは小さくため息を吐き、アルマに微笑みかけた。

「すぐ戻ってくるから、アルマはここでまっていて」
「うん 大丈夫よ」
「!」

アルマが微笑むのが見えて、コリンズの心は途端にムカムカした。

「・・・それじゃコリンズ君。――教えて欲しいんだけどこの広い城の中のどこら辺に・・・君の部屋はあるのかな?」
「―――ふんっ!誰が教えるもんか!自分で探せよ!!」
「・・・」

コリンズはニヤリと意地悪い笑みを浮かべると、クラウドはふぅとため息を吐き―――駆けていった。


***
****
****



アルマと二人きりになり、コリンズはフンと鼻を鳴らした。
この広い城の中――コリンズの部屋を探すのも一苦労ならば、子分の証を探し出すのも至難の業――。
なぜなら、『子分の証』なんて物は存在しないからだ――。

自分の部屋の宝箱は空のまま…。
きっとクラウドは困り果てるだろう。

そう思うと愉快で堪らずコリンズは大いに満足した。――-そしてふと自分の隣に立つアルマを見た。
アルマは不安げにクラウドが去った方向を見ていた―――が、コリンズの視線に気がつくとびくっと身体を硬直させた。

「なんだよ!」
「・・・いえ」

コリンズはニヤと笑った。ヘンな満足感が自分を支配したのがわかる。
クラウドをアルマから引き離したのが愉快でたまらない。
アルマの小さい手を、クラウドが握っていない事が嬉しかった。

「いくぞ!」

コリンズは唐突に歩き出した。

「―――え?ま・・・まってってコリンズ君 クラウドがまだ戻ってないわ」

アルマの慌てた声がするが、コリンズはかまわず足を進める。

「早く着いてこいよ!お前だって俺の子分なんだからな!俺の言うことは絶対だ!」
「でもクラウドが」
「うるさい!子分は親分の言う事を聞いていればいいんだ!」

コリンズの乱暴な言葉に、アルマは困ったようにコリンズを見る。
不安げにクラウドが去った方角を見て、それから歩みを止めないコリンズを慌てて追いかけた。



**


細い埃っぽい廊下を抜け、狭い木々の間を抜ける。
アルマは恐る恐るだがついてきており、コリンズはにんまりとした。

ここは最近見つけた新しい道だった。
城の外へ続いている抜け道だったのだ。



「さぁ!ここから冒険だ!」

コリンズは道端に落ちていた枝を拾い、それを剣のように掲げ威張りくさって言った。

「だ・・ダメよコリンズ君。ここはお城の外だわ。外には魔物がいるの。とてもあぶないわ」
アルマは顔を青くしてコリンズに言った。
「なんだ!恐いのか!」
コリンズはフンと鼻を鳴らした。

「ちがうの!外の魔物は今とても強くなっているの。だから危険なの!」

アルマが必死に訴えるが、コリンズは聞く耳をもたなかった。

「なんだよ!お前世界を救う旅をしてるって言ってるくせに魔物が恐いのかよ!」

コリンズが睨みつけると、アルマは悲しげな顔をした。

「いい魔物さんもいるけど、恐い魔物さんもいるの…。いい魔物さんの方が少ないの…」
「ふん!俺の魔法で魔物なんて簡単にやっつけてやる!いくぞ!」
「ダメよコリンズ君!」

アルマがコリンズの前に立ちはだかった。

「――今は本当にあぶないの!さっきから恐い気配がするの!天気もよくないし帰りましょう」

アルマの顔を見る。今にも泣きそうだった。一瞬ひるんだコリンズだが―――

「せめてクラウドが来るまで待ってほしいの。クラウドは強いから・・・だから」
「・・ッ!!」

この言葉が―――コリンズをカチンとさせた。

「――ックラウドクラウドってうるさいんだよ!お前はこれから『クラウド』って言うな!命令だ!」

突然怒鳴られたアルマはびくっとし、それから悲しそうな顔で俯いた。
それでもコリンズのムカムカは止まらない。
「――お前!あいつがいないと何にもできないのかよ!」
「・・ッ!」

アルマが酷く傷ついた顔をしたのが分かった。
でも自分にはわからないイラつきの所為で、コリンズの口から何処までも苛立ちの言葉が飛び出す。

「お前は俺の子分なんだから、俺の言う事聞いていれば良いんだよ!」

コリンズはそう怒鳴ると森の中に駆け出した。

「・・まっ・・・まって!コリンズ君!」

アルマは真っ青な顔でコリンズを呼んだ。

「早くこいよ!3秒だけ待ってやる!」
コリンズの言葉に、アルマぎゅうっと手に力をこめた。

さっきから、森のほうで嫌な気がする。本能の何処かで警告が発せられてる。

思わず後ろを振り返る。
だが望む姿は見えなかった…。

「早く来いって言ってるだろ!!俺は先に行くぞ」

コリンズの怒鳴る声が聞こえ、駆け出してしまった姿を見て

「・・まって!」

アルマはコリンズを追って駆け出していた。


***

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