その日・・・グランバニアは かつてない程の大歓声に包まれていた。


満面の笑顔を浮かべ、声の限りに祝福の言葉を捧げる者 
全身全霊で その喜びを表現する者

そして とめどなく涙を零し 泣き崩れる者。




彼らの視線は 軽やかに歩くその姿に 向けられる。

惜しみのない 祝福と愛を込めて・・・。





この日のグランバニアには 大いなる『奇跡』が起きていた。




なぜなら


長い年月 行方がわからなかった『王妃』が 『帰還』を果たしたのだ・・・



それも 10年前と何一つ 変わらぬ姿で・・・




■ 白き花の人■




彼女の帰還は 盛大に祝われた。


明るい音楽が奏でられ、華やかな踊り子が舞い踊る。
空には鮮やかな花びらが舞いあがり、その度に祈りの歌がこだまする。

人々は涙を流し、全身で喜びを表し 彼女の帰還を祝福した



あれほど呪った神に とめどない感謝を 捧げながら・・・。







「無事ご帰還されたこと・・・ 心よりお喜び申し上げます ビアンカ王妃」





ビアンカはそう跪いた青年を見て 僅かに首をかしげた。


見事な鎧を纏い、腕には神々しい兜を抱え跪くその姿・・・。
そして、手元には 見事な剣が握られている。


剣には グランバニア王家の紋章が刻まれていた。


それは、グランバニア国が その功績を認めた者だけに与える 聖剣 『奇跡の剣』であった。



青年が 顔を上げる。

その顔は まだ若い・・・



凛とした 整った顔立ち・・・。
小麦色の肌に、銀の髪が静かに輝いている。


なにより鮮やかなのは、勁い色を宿した 翡翠の瞳だった・・・。

その瞳が、静かにビアンカを見つめ、細められる。



「 私は グランバニア 『王族親衛隊』 で隊長を務めます 『クレイト ロイ ハミルド』 と申します。」



その名を聞いたビアンカの碧い瞳が 驚きで開かれる。


「――『クレイト』・・・?あなた 『あの』クレイトなの?」

ビアンカの問いに、青年・・・クレイトは 翡翠の瞳を柔らかく細めて答えた。



「そうです・・・ビアンカ様 お久しぶりでございます」



そう微笑む彼を、ビアンカはポカンと口を開けて見つめる。
彼女の記憶の中では、『彼』はまだ 小さく あどけない『子供』だったのだ・・・。



「―まぁクレイトったら。 こんなに立派になってしまったのね 驚いたわ」


彼女の驚きと そして喜びの混じった言葉に クレイトは静かに微笑む。


「・・・もったいないお言葉でございます ビアンカ様」

「まぁ・・。そんな難しい言葉も使えるようになったなんて―。 すごいわね クレイト」


彼女がそう顔を綻ばすのと対照的に、クレイトはどこか 切なげに微笑んだ・・・。



「・・私が初めてビアンカ様にお会いしてからもう・・ 『10年』も経っていますから」



その言葉に、ビアンカは微笑む。――あどけない 少女のように



「ふふ そうね。
あの時のクレイトはまだ 『12歳』だったわね。・・・時が経つのは早いなぁ」


そして、海と空の合わさった碧い瞳を輝かせて、クレイトの顔を覗き込む。


「それにしても 昔は、あんなにちっちゃかったのになぁ・・・。こんな逞しくなっていて すごくびっくり・・・。
 
手だってすごく小さくて、ふにふにしていたのに、今ではこんな立派な剣を握れるほど 大きくなったんだぁ・・・。

ふふ。覚えている?―お話する時だって、いつも私がしゃがんでいたでしょ・・・?
それが、今は私よりも う〜んと背も高くなったね・・・ 」


ビアンカはそう微笑んで 碧い瞳を伏せた。



「・・・そっかぁ。もうそんなに 時が過ぎてしまったんだよね・・・」



そう小さく呟いた声は どこか寂しげで でもどこか 懐かしむようでもあった。



事実、彼女の容姿は 『あの日』から少しも変わっていない・・・。
時は確実に流れ、全てが姿を変えていたけれど、ビアンカは何一つ変わっていなかった。


それは 彼女の『時間』が 『石化』という『呪い』で止められていた所為だった・・・。
だが もしそうでなくても、彼女はこうして、何も変わらないのではないか・・・と思わせる。


美しく 華やかで それでいて人を微笑ませる愛らしさ・・・。

それは一生 変わることはないだろう・・・。






「・・・ビアンカ様」

「・・ん?」

静かに呼ばれ、ビアンカが瞳を開く。
だが、己が呼んだにも関わらず、その瞳を向けられた彼は 言葉に詰まったように口を噤んだ・・・。


「・・・なぁに?クレイト」

彼の、その表情を見たビアンカは そう優しく問い掛ける。



だが彼はそれに応えることなく 視線を逸らし、俯いた。



その姿に、ビアンカは柔らかく瞳を細め、心の中で 小さく苦笑した。






――昔から 変わっていない

泣きそうな時に・・・こうして俯いてしまう所は・・・。








「・・・・『あの時』の私は まだ幼く なんの力も持たない、無力な子供でした・・・」



突如そう呟いた彼の声は・・・微かに擦れていた。



「・・・ビアンカ様・・・いえ、リュケイロム王と王妃である あなた様にあれほどの危機が及んでも・・・
何もできず・・・お助けすることも出来ぬほどに・・・私は幼く・・・・無力でした・・・」



握られた拳は 震える・・・。





「・・・申し訳ありません・・・。私は 『10年』もの間・・・あなたを救うことができませんでした・・・」



後悔と 懺悔すら滲むような声で 呟かれた言葉・・・・。


だが

その言葉に答えた声は 穏やかな波のように 暖かかった






「・・・謝ることなんて 何もないのよ クレイト。」




風が吹き・・・彼女の・・・花の香りが ほのかに香った・・・。




「だって・・・あなたはいつも 一生懸命に守ってくれていたもの・・・」






そして同時に聞こえた 彼女の柔らかな声に、その翡翠の瞳が 開かれる・・・





「・・・私は今でも ちゃんと覚えている・・・。

クレイトが・・・お花をくれたこと・・そして・・・『祝福』を 与えてくれたことを・・・」




ビアンカの澄んだ碧い瞳が クレイトを見て柔らかく 柔らかく 微笑む





彼は、顔をあげない・・・。


その唇は まるで何かに堪えるように 固く結ばれる








「・・・たくさん 頑張ってくれたのね・・・ ありがとう クレイト」







その言葉を聞いた 瞬間




彼の瞳からは 



とめどない涙が 溢れていた






***






――・・・10年



彼女を再び この眼で見ることが叶うまで


この微笑みを 再び見ることができるまで・・・


それ程の時間が  過ぎていた・・・









**







**






「ねぇ母さん・・・どうしたの?なにがあったの!」

クレイトは母の裾を引き、必死に問うた。
だが母は答えてくれない。

だだひどく嬉しそうに、そして感極まった顔をして 目の前を見つめ続けていた。


母だけじゃない。
グランバニアの全ての人々が 同じような顔をしているのだ。


中央通りを見つめて・・・



クレイトの前には背の高い大人がたくさんいて、どうしても『その場』を見ることができなかった。
だから 必死に母に問い、少しでも『答え』を知ろうとするのに、
母は涙を流すだけで、クレイトの問いには答えてくれない。


「ねぇ!母さんたら!」

彼が一際大きくそう呼ぶと、母はようやく 涙を拭いながら答えてくれた。


「ああ・・。たった今ね、グランバニア王・・・ パパス様の御子・・・リュケイロム王子が ご帰還されたのよ」


「・・え?リュケイロム王子が!」

クレイトは驚愕に目を驚く。


グランバニア王 パパスの一人息子・・・。

正式名を リュケイロム エルケル グランバニア



グランバニアの 正統な 王位継承者。



だが『彼』は・・クレイトが生まれる7年も前に 王と共にグランバニアから姿を消していた。

そして王 パパスと同様・・・すでに、『生きてはいない』と 囁かれていたのだ。




「・・・・ああ。パパス様の・・・マーサ様のお導きだ・・」



母はそう言って 嗚咽を漏らし、顔を覆った。




「母さん!!ボクも!!ボクも王子様を見たいよ!」


クレイトはそう 必死に訴える。



『パパス王』の事なら、何度も親に聞かされていた。

どんなに立派な人だったのか・・どんなに素晴らしい人だったのか・・・と。


『パパス王のような男になれ』 とは 父の口癖でもあった。


その息子・・・。
しかも 未来の『グランバニア王』となるべき人ならば、一目この目で見てみたいと思うのは 至極当然のことだった。


だが母は 感極まったように泣くのに忙しく、クレイトの訴えには答えてくれる気配がない・・・。

仕方なくクレイトは 壁のような大人達の間を必死に掻き分け 先へと進むことにした・・。



息を切らし 汗ばみながら人を掻き分け

そして ようやく最前列に来ることができた

だが・・・安堵のため息を吐く間もなく・・・



クレイトは 


見たのだ・・・






クレイトの視線に入ったのは 王子 リュケイロムではなかった




彼の隣を・・・軽やかに歩く 一人の女性。







息をのむほど・・・美しい人だった





**



『女神』だと・・・囁かれた彼女は

そう称されるに相応しいほど 美しい人だった・・・。

そして彼女の美しさは 人を笑ませる 愛らしいものだった。



明るく 天真爛漫で 無邪気・・
誰とも分け隔てなく接し、くるくると笑う。


そんな彼女は、クレイトにもなんの気兼ねもせず 優しく接してくれた。





「・・・あの・・これを」




クレイトはそう言って、花を差し出す。
握られたのは、白く清楚な花・・・。

それを見た彼女は、その顔に嬉しさをいっぱいに表す。

「まぁ ありがとう クレイト」

花に負けぬほど、愛らしく微笑むその顔は まだ少女の面影が消えていない・・・。
もうすぐ・・・『母』になるとは 思えぬほどに・・・




「・・・これは 『シンシア』の花ね」



彼女がそう微笑むと、クレイトは頷いた。



『シンシア』の花・・・

それは白く 清らかで 愛らしい花だった・・・。



『シンシア』とは

遥か昔・・・『天空の勇者 ユリウス』が愛した 一人の女性の名だと伝えらえている・・・。


伝説によれば・・・死んだはずの彼女が 再びユリウスの元へ甦った時
この白き花が 『ユリウス』の生まれ育った故郷の地に、咲き誇ったのだと言う・・・。




この花は 希望と祝福の証・・・




「新しく生まれてくる・・・赤ちゃんに・・『ユリウス』のご加護がありますように・・・・」


クレイトはそう 微笑む。


『シンシアの奇跡』として 長い間語り継がれてきた伝説がある・・・。


この花が咲き乱れる時に生まれた子供は・・・ 『天空の加護』を宿すのだと言う・・・。

天に愛され 海に愛され  そして 大いなる祝福を 与えられるのだと・・・


「クレイト ありがとう。・・・嬉しいわ」



ビアンカはそう鮮やかに微笑んだのち、瞳を伏せ、祈った・・・・。





「私達の子供に・・・・・どうか・・・『ユリウス』のご加護があらんことを・・・・」









祈りを捧げる彼女を 窓から差し込んだ光が 柔らかく照らして 

まるで、聖光で包まれているように見えた・・・。



彼女から 白い羽根が生えていないのが不思議なほど

神秘的な 光景だった・・・。




祈りを捧げる彼女を見ながら、クレイトは小さな秘密を胸に隠す。


シンシアの花を

彼女から生まれてくる 新しい命を 祝福する為に送った・・・それは『真実』であったけれど



それと共に、もう一つ 隠した意味もあった…



シンシアの花には 花言葉がある


それは



『…私の全ての心を あなたに捧げる・・・』



それは勇者『ユリウス』が シンシアに残した言葉だと 伝えられている





その意味に、きっと彼女は気づかない・・。

それでも構わなかった・・。

幼く無垢な彼の心は 彼女がその花を愛でてくれるだけで 満たされていた。






シンシアの花からは 良い香りがした。

そしてその香りは ビアンカの香りでもあった。

ビアンカは いつでも 花の・・・シンシアの香りがした。

清らかで 林檎のように 甘い香り・・



彼女は 花のような人だ・・・


その香りも その姿も 纏っている オーラでさえも
花のように色褪せない・・・。


祈り続ける彼女を見て・・・

ふと、クレイトは思い出す。



グランバニアに伝わる 悲しき歴史・・・。


グランバニアの『王妃』には いつも『暗い影が付き纏う』 ・・・そういう噂を聞いた事があった・・・。

王が 王妃を愛するほど・・・王妃に落ちる影が 濃くなるのだと・・・・。



現に 前王妃マーサは 魔界に連れ去られ それ以降の消息は知れない。







白い光を纏い 祈るその姿に 胸が熱くなった。


この花を…この人を守りたい・・・
切に そう思った




「・・・ビアンカ様 ボク・・・必ず ビアンカ様を守るからね・・。」


クレイトは 頬を染め、まだ小さな拳を握りしめ、彼女を見上げた。


クレイトの突然の言葉に、彼女はその空色の瞳を クレイトに向けた。

その瞳を受け止め、クレイトは必死に声を張り上げた。



「誓うよ!ぜったい・・何があっても ビアンカ様を守るから!

リュカ様より強くなって、ビアンカ様を苛めたりする悪い奴なんて、ボクが倒してあげるからね!」

クレイトの強い言葉に、彼女の美しい顔が 柔らかく微笑む

そして伸ばされた 暖かい手。


「ふふ ありがとうクレイト 心強いわ」



優しく頭を撫でられて・・・香りに包まれた時





本気で誓った




この人を・・・何があっても 闇に攫われたりしない・・・


歴史は 繰り返させない・・・と



***




心に抱いたその想いは どこまでも純粋であり、その誓いも――『真実』であった。


だが・・・『あの頃』の彼は まだ幼く 無知で非力な 子供だった・・・



誰も彼を責めない・・・。
彼の誓いが 破られたことを 責めたりはなどしない・・・









無情にも・・・彼のその『誓い』から時を経たずして グランバニアは『歴史』を 繰り返すことになる・・・




国を憂いた大臣が 邪悪な者と手を組み・・・グランバニアに大いなる 禍 を招いたのだ。




生まれたばかりの 子供を残したまま



王妃・・ビアンカは グランバニアから姿を消した




そして―― 王 リュケイロムも












**




クレイトには 何もできなかった

何をすることすらも 許されなかった


彼には 『魔物』と戦う力も 無く


この事態を掌握するほどの 思考も無く


答えを探せるほどの 『経験』も 無かった








事はあまりにも重大で・・・国も民も 余裕を無くしていた。

幼い子供の・・・我儘にしか聞こえない意見など 誰も聞く耳を持たなかった。



『捜索隊』に加わることすらも 許されなかった。

だが 国を飛び出して

一人でその行方を捜すには あまりにも力が足りなかった



彼はまだ 12歳を迎えばかりの 非力な子供に過ぎなかった。




己の無力さが 恨めしかった・・・。
何もさせてもらえない・・できない己が 不甲斐なく 情けなかった


溢れだした感情を 彼は泣き、喚くことでしか 表現できなかった。




守るといった
守りたいと・・・そう心から思った。


歴史は繰り返させないと 心から誓った・・・。




花のように 愛らしい彼女を

何者の手からも 守って見せると そう誓った



シンシアの花を捧げ 

遥か昔 『勇者』がそう誓ったように

クレイトも 誓ったのだ・・・。






だが現実は 残酷なまでに 彼の『無力さ』を 見せ付け続けた







その 苦しい感情から逃れる為に クレイトは剣を取った。



剣士ピエールに教えを乞い 魔術師マーリンに魔法を習った


リュケイロム王の仲間 その『魔物』達からも どんな些細なことでもかまわず 知識を与えてもらった。







気が遠くなるような 時が流れて





気がつけば、グランバニア歴史上 最も若くして 


王族親衛隊 『隊長』に選ばれていた。



その功績を讃えた 『奇跡の剣』を授かった時



クレイトが強く望み続けた  『捜索隊』の 全指揮権を 得ることができた。









世界中を 駆け巡った・・・


流れて過ぎた年月を 少しでも取り戻そうと・・・。




少しでも情報があれば 駆けつけ 些細なことでも見逃さないように全神経を注いだ。

兵士には徹底的な命令を出し、情報を隠そうとした者には 手荒いこともした。




手段は選ばなかった・・・。



自らも何度も 足を運び、 情報を集めた・・・


資金を稼ぐために 闇の闘技場で戦ったこともある


小金を握らせ、『闇』の世界の者からも 情報を買った・・・。








そしてようやく 『王』の消息を掴んだのは

彼が隊長なって 2年が過ぎようとした頃だった・・・。





そしてさらに 2年経ち・・・

『王』と、彼女の『子供』の活躍により ついに彼女の消息が明らかになった・・・。





彼女は クレイトの想像もできないほど 高く… 遠い神殿の奥で 


祈りを捧げられていた・・・




『女神』と 呼ばれて・・・・








**



そして


――10年の時を経て、彼女は帰ってきた


あの日と  何一つ 変わらぬまま



**




「・・・『あの日』から・・・ずっと・・・ずっと」



クレイトの声は 嗚咽で途切れた




「・・・・お会いしたかったです・・・・ビアンカ様・・・ッ」




翡翠の瞳から溢れた涙が、頬を伝い 零れていく


彼の心を 洗い流していくように・・・




「・・・もう一度 お会いしたかった・・・

その笑顔を拝見したかった・・

そのお声を 聞きたかった・・ッ・・・・」




彼は 幼い子供に戻ったように 泣いた・・。




――…10年



クレイトにとって・・・それは あまりにも長かった・・・。



会いたくて

会いたくて



その姿を 一目でも 見たくて・・

その歌うような声を 少しでも 聞きたくて・・・


どれほど 彼女に 恋い焦がれたことだろう・・・。


そして

叶わぬ現実に 何度 涙を流したことだろう・・・。




――『あの日』から 今まで


後悔と焦燥と 悲しさと 辛さと

とめどない不安と 絶望に 追いかけられてきた・・・。



微かな希望を見出し・・・喜びに胸を弾ませ・・・


だがそれすらも 目の前で裏切られ


それを 数え切れないほどに繰り返して・・・


『光』を 見失ったこともある・・・。




長い時間と共に成長し あれほど望んだ『力』を得たにも 関わらず・・


依然と知れぬ 彼女の消息に




神を 呪ったこともあった・・・。








それでも 最後には 神に祈ることしか できなかった













シンシアの花 


それが咲き誇る あの季節になって

その香りが グランバニアを包む度に

鮮やかに浮かび上がる その姿を 思い出す度に



心が折れそうなほどの 痛みに 耐え



そして 誓った




彼女の微笑みを もう一度 取り戻してみせる・・・と



それまでは・・・決して 振り返らないと







**





クレイトの 手の届く場所で また あの花の香りがした


そして、あの恋しくて堪らなかった 暖かな温もりが 触れた。




優しく 優しく 頭を撫でてくれる その手

あの日と何一つ 変わらない・・・









「・・・優しい子・・・あなたのその優しさに 感謝します・・・・」





そう 優しい声がした







「・・・ずっと 頑張ってくれていたのね
・・リュカの為に クラウドと アルマの為に・・・そして私の為に・・・・





彼女の碧い瞳が 柔らかく微笑む



「グランバニア王族親衛隊隊長 クレイト ロイ ハミルド――

 私は、あなたを誇りに思います・・・。」










あの日と変わらぬ その声音

その香り

その・・・微笑み



ずっと 見たかった
ずっと 感じたかった


そして ようやく 再び 取り戻せた










力があれば
 

大人であれば


強くあれば



そう・・幼すぎた自分を呪い続けた 膨大な時間



後悔に 胸をやかれ・・・

無力な自分を責め続けた あの長い時間・・


それが今 終わりを告げたのだ・・・




彼女は クレイトの前に いる・・・


シンシアの花が 同じ季節に 咲き乱れるように・・・


――返り咲いてくれた


あの日と何一つ  変わらぬ 姿のまま












「・・・『シンシアの祝福』を  あなたに 」






彼女のその微笑みに、








答えた声は 嗚咽にまぎれた。








***





彼女がグランバニアに帰還したその日・・



国には シンシアの花が 咲き誇った



風に揺られ その香りは グランバニアを柔らかに包み込んだ




たくさんの 祝福と共に…





END




グランバニア国の少年の 淡い恋のお話・・・。


テーマソング『歴史は語る』




















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送