「・・・断る!――オレは絶対に嫌だからな!」


声を張り上げる青年を見て、オジロンは困惑の色を浮かべたまま 重い溜息を吐かずにはいられない。

先ほどから数時間、その必要性・・その大切さを必死に説いたというのに、
目の前の青年は受け入れるどころか、強く反発することしかしない。

時間が経つほど、青年の心は 嵐のように荒れていくようだった。
この一度言い出したら聞かない性格は 間違いなく『父親』譲りだろう・・。

オジロンも長時間に渡る説得と 熱弁で疲れていた。

力なく椅子に腰掛け、溜息を吐けば、それを聞き取った青年も 同じく溜息を吐く。
だがオジロンとは違い、そこには苛立ちが含まれている。

「どんなに言われても答えは同じだよ・・・」
青年はそう吐き捨てるようにいい、漆黒の瞳に苛立ちの色を滲ませた。

「・・・サンチョだってオレの性格は知ってるだろ!」
「ええ!存じておりますとも!」



彼の視線に少しも動じず、サンチョは続ける。


「―――ですが、サンチョは絶対に意見を変えません!」


強く言い放つサンチョを、青年がイライラと睨みつける。

「親父と一緒にしないでくれよ!・・・オレはオレだ!・・・オレは好きなようにする!今までもそうしてきた!―・・それに これからもだ!!」
「ええ!お好きになさって結構ですよ!どーぞお好きなようにやってください!――ですが、これとそれとでは話が違います!」

サンチョはきっぱり言い切る。
すると青年が遂に立ち上がり、激しい音と共に机を叩きつけた。

「言っとくけどなぁ!オレは『王』になる為に、グランバニアに来たわけじゃないッ!
オレの故郷が『ここ』だと聞いたら、ビアンカが見たいって言うから・・・それだけの為に『ここ』に来たんだ!!
―-・・サンチョはもう黙れよッ!」


感情を剥き出しに声を荒げる青年は、酷い幼さを感じさせた・・。
まるで親に反抗する子供のようだ・・・。


「いいえ!黙りません!サンチョの人生で最初で最後の『勝手』でございます!存分に言わせていただきますとも!」

サンチョの態度に、青年が苦々しく呻く。

「・・・ビアンカの体調が悪いから『ここ』にいるだけなんだ・・・。ビアンカさえ良くなれば、すぐ出てってやるのに・・・ッ」


彼は視線を逸らし、吐き捨てた。

「・・・親父がどうのこうのって・・今更なんだよ・・ッ。今更そんな事言われたって 『はい』なんて言えるわけ無いだろ!
親父だって オレに『何も』伝えなかったじゃないか!―― それなのに勝手なことばかりいうな!!」

青年が苦々しく吐き捨てる。。
その瞳には 怒り以外の感情が浮かんでいる。
オジロンは彼の言葉に押し黙った。
先代王パパスは、己の素性をいっさい息子には明かしていなかった。
彼が何故、 『王』という身でありながら国を出たのか・・・そして息子を連れて行ったのか・・・。
彼が母の生存を知ったのですら・・・パパスがその命を落とす 僅か前だったと聞いている。



「・・・・親父も・・サンチョも・・勝手なことばかりいうな!親父の遣り残した『仕事』を・・・オレに押し付けるな・・・ッ
オレは何も知らなかった・・・。なのにどうしようもなくなった途端に全てを聞かされて・・・どうしろってんだ・・・ッ」



彼の悲痛な呟きのあと、少しの静寂が支配する

――そして・・・

「・・・わかりましたよ・・・坊ちゃん」
「サンチョ!」
その言葉に目を見開いたのは青年ではなく、オジロンだった。

「そんなに『王位』を継ぐのがお嫌なら それで結構でございます!」
「・・・ッ」
サンチョは淡々という。
その声音に、青年はむっとしたように言葉を飲み込んだ。

――二人の視線がぶつかる


オジロンがただ一人・・・おろおろと成り行きを見守った。
視線を逸らしたのは、青年の方だった。

「・・・・じゃあ――この話はこれで終わりだ・・じゃあな」

青年はそう吐き捨てると、荒々しくこの場を去っていった。


***



「・・・おいサンチョ!」
「『あれ』でいいのでございます!」

サンチョは落ち着き払ってそう断言する。

「だがこのままでは・・・・。お主はリュカが『王位』を継がなくてもいいというのか!」

オジロンがそう気色ばむと、サンチョがコホンと一つ咳をしてオジロンに向き合った。

「オジロン王― お言葉ですがこのサンチョ 幼い頃からリュカ・・・いえ リュケイロム王子を見ております。
坊ちゃんの仰るとおり、坊ちゃんの性格はちゃ〜〜んとわかっております」

そう言い切るサンチョにオジロンは眩暈を起こし、ヨロヨロと椅子に凭れ掛る・・・。

「・・・では、リュカの言葉通りにしろと・・・?リュカが『王位』を継がぬのは仕方が無い・・・。そうしろと?」
「いいえ」

サンチョはきっぱりと言い放つ。


「・・・ですが、今の坊ちゃんに私共が何を言っても無駄でございます。
坊ちゃんは昔から、『こう』と決めたら周りが見えなくなるタイプでございますし・・・
あれほど頭に血が上っていれば、今は何を言っても逆効果なだけですよ・・」



サンチョはそういいながら手際よく茶器を片付ける。


「・・・ですから、ビアンカ様に任せします」
「・・・『ビアンカ』?」

突如出たその名に、オジロンはああ・・と思い出す。

「・・・ああ・・・リュカの妻の・・・」

そういうと、サンチョは軽く息を吐き、笑んだ。



「・・・彼女なら、必ず良い方向に導いてくれます」



その言葉にオジロンはポカンと口を開ける。
サンチョはただただ微笑むだけだった。



■ 白き羽根の子守唄 ■


リュカはイライラと廊下を歩いていた。
肩を怒らせて歩く彼の姿を、人が遠巻きに見ようとも気にもならない。
それほど彼は苛立っていた。
猛烈な速度で歩き、漸く目的の場所に着くと 美しい細工が施された扉がある。
それを空け、中に入った途端・・・
あれほど曇っていた彼の顔が、ほっとしたような・・・穏やかに表情に変わった。


広い部屋・・・。
そこに置かれ豪奢な刺繍が施されたベットの上に、一人の若い娘がいた。
いつも結ってある髪を解き、緩やかなウェーブになって腰まで下がる金色の髪が、静かに揺れている。

天気が良い為に窓が開かれていたのだ。
だから暖かな心地いい風が室内を覆い、ゆったりとカーテンを揺らしている。
彼が足を踏み入れると、彼女の視線がこちらを向く。
そして、彼の顔を視界に納めると、その顔を綻ばせた



「あら。 お帰りなさい リュカ―」



ふわっと笑うことで、彼女の愛らしい顔が更に明るく輝く。


「・・ずいぶん遅かったわね。サンチョさん達とお話できた?」

柔らかく問うてくる彼女に、彼―・・・リュカはただ微かに笑み 答えを返さなかった・・・。





「・・・・ビアンカ。それ、何作ってるの?」

リュカはベット近くの椅子に腰掛けながら・・彼女―ビアンカの手元を指差した。
ビアンカの手には 二つの編み棒が握られている。
そこに繋がる毛糸は空色・・・。だがもうひとつ・・桃色も用意されていた。
「・・・ふふ。これはね、生まれてくる赤ちゃんの靴下なの」
ビアンカはふんわりと笑う。
「・・・どうして二つ作るの・・?それも青と桃色・・。『どちら』が生まれてもいいように?」
リュカが不思議そうに首を傾げると、彼女は更にふんわりと笑う。
「―――違うわ。・・・なんとなく二つ作りたくなったから・・」
「・・・ふ〜ん」


リュカは呟きながら、嬉しげに編み物を続けていくビアンカを眺める・・・。
ビアンカには――既に分かっているのかもしれない・・・。生まれてくる子供の事が・・・。
昔からそうだ―――。
ビアンカはこうして―――『未来』の事を見通していることがあった。
リュカが聞いても、こうしてふんわり笑って誤魔化されてしまうけれど・・。
**

少しずつ出来上がっていく編み物を見つめながら、リュカは柔らかく瞳を閉じた
ビアンカと二人で過ごす、この空間が好きだった。
ビアンカはとてもキレイで、なのに天真爛漫で明るくて・・・表情がくるくる変わっていく。
それを見ているも好きだったし、時折交わされる何気ない会話も好きだった。
そして、何も語らず静かな時間を楽しむ今みたいな時間も・・・。
彼女と過ごす時間も空間も―――全てリュカの心を落ち着かせてくれる。



――彼女以外と過ごす時間は―――好きじゃない。



もともとリュカは、人付き合いが得意じゃない・・・。
幼い時からずっと、人との触れ合いが何よりも苦手で、嫌いだった・・・。
父の後ろにくっついて旅をしていたが、その想いが変わることは無かった。
人間といるよりも――動物や妖精・・・そして魔物といる方が楽しかったし、心が楽だった。
だから小さいの時からの友達と言えば、魔物のプックルだけ・・・。
成長して得た友も、ラインハット王子のヘンリーだけだった。


リュカの『人間』の知り合いは、両手があれば足りてしまう・・・。
だがリュカ自身、特にそれを気にしたことはない。
彼の世界は、人から見ればとても狭く、そして小さなものかもしれないが
それでも彼にとっては『その世界』が 心地よかったのだ。




だが、そんな狭い彼の世界の中心に、ずっとあり続けた存在がある・・・。


それが彼女・・・―――ビアンカだった。


彼女と初めて出会った―――その瞬間に・・・リュカは恋に落ちた・・・。


理由など・・・無かった。


ただ・・・惹かれたのだ・・・―――どうようもなく・・。


人間と触れ合うのを嫌い続けた彼が―――心の底から共にいることを望み、堪らなく惹かれた存在・・・。
それが・・彼女・・・。



ビアンカとリュカは――何もかも、正反対だった。
それは性別から始まって、明るく親しみやすい 対照的な性格も・・・
無愛想な彼と違い―――くるくると変わる表情・・。
ぶっきら棒な彼の声と違い――穏やかな柔らかい音をだす口・・・。
――暖かく 強い 瞳・・・。

また、彼とは違い鮮やかで・・明るい色を纏う彼女の容姿は 人を微笑ませた。

それは――彼も例外ではなかった。
彼女の存在は―――彼の心にも、いつでも明るい光を照らしてくれた。
彼女の温もりが 暖かさ 華やかさが
彼の狭い世界に いつでも風を通してくれた・・・。


『天使』と言う存在がいるとするならば・・それはきっと 『ビアンカ』みたいな顔をしている・・・。

リュカは心の底からそう思っていた・・。





リュカにとって・・・ビアンカの存在は なによりも大きい・・・。



なによりも 大事だった・・・






・・・だから


**


「・・・オレは・・・グランバニアの『王』にはならない・・・・」


リュカは突如呟いた。
どこか、ぶっきらぼうな声音で・・


「うん・・」

ビアンカは編み物を続けながら、そう答える。――いつもどおり ふんわりと優しい声音で・・・。
その声を聞いて、リュカの口からは言葉が零れ落ちていく。
「・・・オレは王族とか・・国とか・・民とか・・・別にどうだっていいんだ・・。
確かに『親父』は立派な王で・・・そして国にも民にも慕われていたようだけど・・・オレにそれを求められたって迷惑なだけだ・・・。オレは親父とは違う・・・」

低く呟いたリュカはそっと、ビアンカの髪に触れる。
明るく輝いて、柔らかい・・・。
リュカの大好きな――髪。

「オレは・・ビアンカと・・・二人でずっと・・・ずっと・・・一緒に居られればいい・・・。
ビアンカが傍にいてくれて、そうやって笑ってくれるだけでいい・・・」

ぽつりぽつりと呟くリュカを、編み物の手を止めたビアンカが優しく見つめている。
空と海を混ぜ合わせたような 鮮やかな碧色の瞳・・・。

その瞳で見つめられると、リュカはどこか落ち着きがなくなる・・。
ビアンカの澄んだ大きな瞳・・・。
それで見つめられると、心が見透かされている気がしてしまう・・・。


心の中に深く深く隠していた、その『想い』までも 彼女には見えているのかもしれないと想う・・。


でもそれは同時に、リュカの心を包んでくれるのだ。
そっと触れて、まるで癒やしてくれるように・・・。



いつもそうだ・・・。


ビアンカにその瞳で見つめられてしまうと、こうして素直に感情が出てくる・・。
言えなくて・・・押し殺した その黒い感情を―――まるで清めてもらおうと するように・・・。




「・・・本当は・・・子供だって・・・いらないんだ。」



リュカは消えそうなほど 小さな声で呟いて、視線を逸らす。―・・ビアンカの手を握り締めながら・・・。
この告白は・・・リュカの中でタブーだった。
絶対に知られたくなかった想いでもあった・・・。




だが・・・




ビアンカが優しくその手を握り返してくれるのを感じ、心が揺れる・・・。
もう、堪えることなど出来なかった・・・。
彼女が『妊娠した』と聞いた時から抱えていた『感情』が まるで雫のように口から零れていく・・・。

「だって・・子供が生まれたら・・・ビアンカの中で・・『子供』が『一番』になる・・・・・」


彼は続けた・・・消えそうな程 小さな声で・・・



「オレのことなんて・・・二番か・・三番になる・・・そんなの・・・嫌だ・・・」



妊娠してると聞かされた時に、素直に喜ぶことが出来なかった。
瞬時に胸に生まれたその感情は、リュカ自身でも分かるほど・・恐ろしく幼稚なものだった・・。
ビアンカに対する――独占欲。
彼女をいつでも一人占めしていたい・・。
その視線も心も――いつでも自分だけを見ていてほしい…。


そんな―――あまりにも幼い―――想い。



妊娠を喜ぶビアンカに――喜んでいないと思われたくはなかった・・・けれど、
心の中に生まれたこの『不安』をなくすこともできなかった・・・。

彼自身 嫌なほど分かっている・・。・
この・・・余りにも幼すぎる 感情。
だからこそ―――言えなかった。

もしそんなことを言ったら―――ビアンカに心底呆れられてしまうのかもしれない…。
・・・そういう―――漠然とした恐怖があったから・・・。


リュカは――精神的にとても幼く――不安定だった。
そして――そんな彼が一番苦手としていたことは――人へ自分の気持ちを伝えることだった。
どうやったら上手く関わっていけるのか―――どうやったら自分の思いを上手く伝えることができるのか――彼は知らなかった。

なぜなら――小さい時から人と係わろうとしなかった・・・――それでいいと思っていたから・・・。
父の背について回り――父の背後に隠れて誰にも心を開かなかった――。
父はそんな自分を何度か諭したけれど――生まれもった性格は直らなかったし、治そうとも思わなかった――。
そして何度も諭してくれた父もまた――いなくなった――。


――そんなリュカと真正面からぶつかってくれたのは ヘンリーだった。
ヘンリーの言葉は常に直球で、ストレートだった。
リュカの無愛想さ、言葉の足りなさをズケズケと指摘してくるから、その度に大きな喧嘩をし、殴り合った。
だけど、リュカはヘンリーから学んだのだ・・・。

魔物達なら言葉が無くても 伝わる・・・。
瞳を見ただけで、気付いてくれる・・。
でも、人間はそうじゃない・・・。

人と係わるには・・・見ているだけでは駄目なのだ・・。
目を見るだけで・・・伝えようとしても駄目なのだ・・・。
相手に伝えるためにも――自分の思いをきちんと分かってもらう為にも


言葉で
態度で
示していかなくてはならないのだ・・・。

――だから自分なりには必死に努力したつもりだ――。言葉で‥態度で‥示してきた――つもりだ。
でも―――不安だった。
こんな自分の想いが―――彼女にうまく・・・伝わっているのか・・・

――特にリュカは――彼女に対して漠然とした『不安』を抱えていた。
なぜなら――ビアンカの初恋の相手が 自分の『父親』だと知っていて
ビアンカの好みの相手が『年上』で『包容力』がある人だと、聞いていたからだった。

リュカは彼女より――二つも『年下』で、なにより『包容力』が決定的に欠けていた・・・。
その為にいつまでも『弟』扱いして、『男』としてみてくれなかったビアンカ・・・。
彼女に、気持ちをぶつけて ようやく受け入れられたのは10年も経ってからだった・・・。

今―彼女は――傍にいてくれる…。
でも――実際、歳の差は埋まるものではないし、リュカがどんなに頑張ってみても、いつでもビアンカが一歩先へ進んでいるような気がする。
ビアンカを『包み込む』というより、いつもリュカが包み込まれている・・・。
どちらかというと、リュカの愛情表現は、包み込むというよりは『ぶつける』という言葉の方がふさわしい・・・。

ビアンカの望む『タイプ』とまるで逆なことは、自分が一番分かっている・・・。

だから、些細なことで――不安になる・・・。
彼女が自分に呆れて――去ってしまうのではないかと――怖くなる。
そうならない為にも――一生懸命――言葉で態度で――気持ちを伝えて――いきたい。
傍にいて――どれだけ幸せなのか――どれだけ彼女のことを好きでいるのか知ってほしい――。
でも―――それが上手く伝わらなくて――『呆れられる』のも――怖いのだ。


今まで隠してきた――子供への思いもそうだった。


好きで好きで
大好きで・・
やっと想いが通じて・・・。
ようやくリュカだけのビアンカになったのに・・
その生活が1年も経たぬ内に終わってしまうかもしれない・・。

子供が生まれれば、きっと二人の時間なんて無くなってしまう・・・。
そしたらビアンカの中で、リュカへの想いはどうなってしまうのだろう・・?


その不安が、あの日からずっと消えなかったのだ・・・。


**


俯いたリュカの顔は、幼い子供に戻ったようだった。



「・・ビアンカと二人でいい・・・二人がいい」


ぽつり・・・と呟いた後、くすっと笑う声が聞こえて、リュカの手が柔らかい温もりに包まれる。
その手の暖かさ・・・そして彼女から香る 花の香りにリュカは心が包まれていく気がした。
瞳を上げると、そこには優しく微笑むビアンカの顔があった・・


呆れてもいない・・・
突き放すのでもない・・・


柔らかな
暖かい微笑み

「・・んもぅ。おばかね」

ビアンカはふふ・・と笑う。

「リュカのこと一番だ〜い好きよ・・・ずっとずっとよ」


彼女の明るい声に、リュカの顔が赤くなる・・。

「ほんと・・・?だって子供が生まれたら・・そしたら」
「そうね。だったら『大好き』な気持ちは子供にあげる・・・。そして、リュカには『愛してる』をあげる」

ビアンカは柔らかく微笑む。

「・・二人の時間だってちゃんとつくれるわ。そうね・・・子供が寝たら、たくさん二人でお話しよう?
いつもみたいに温かいミルクを飲んで、眠くなるまで・・・」

『ね?』と彼女は微笑む。

それでもリュカはどこか疑うようなまなざしを向ける・・幼い子供のような、まなざしを・・。

「子供が寝なかったら・・・?いつまでもビアンカから離れなかったら?」
「そうしたら、リュカは私と赤ちゃんを一緒にだっこしてちょうだい・・・。そうして二人で赤ちゃんが眠るまで一緒に居ようよ」


「・・『二人』で?」
「ええ・・・二人で・・・『一緒』に・・・よ」


ビアンカがふんわりと笑う。
リュカは思わず俯いた・・・。
やっぱり・・・ビアンカには適わない・・。
ビアンカはどうして、こんなにもリュカの心がわかるのだろう・・・?
子供のことも・・・そう・・。
決して嬉しくないわけではなかった・・。

ただ―――どうしても・・・不安だった。

それでもビアンカが 自分を想ってくれるのか・・・


「・・・『グランバニア』も・・私が一緒に 支えていく・・・」

突如聞こえた彼女の言葉に、リュカの目が開かれる。
ビアンカは静かに、優しく言葉を続ける



「・・・この国はリュカを必要としている・・・。
国だけじゃなくて、サンチョさんもオジロン王も・・・そしてグランバニアの皆も・・―――・・・リュカを待っている・・・。」

ビアンカの手は、優しく そして強く リュカの手を握る・・・。

「リュカが『王』になっても、・・・私はこうして傍にいるわ」

優しく優しく・・・その言葉はリュカの耳に届けられる・・・

「リュカが辛い時、苦しい時・・・迷っている時・・・私は必ず傍にいるわ・・・。」

彼の瞳から・・・涙が零れていく
彼女は知っていた・・・
あの言葉が・・・彼の『本心』ではないこと・・・・

『王』の件を否定したのは・・・それ以前の不安・・・
先ほどの『子供』への不安を隠す カモフラージュに過ぎなかったことに・・・。

彼は父の残した『願い』を・・そして『想い』を断ち切るほど・・・幼くは無かったことに・・・。

「リュカが泣いてる時、怒っている時・・・そして寂しい時も・・・私はここにいるわ・・・」


彼女はその碧い瞳を 笑みに変える




「・・・・・リュカは一人じゃないわ。私はいつも・・・・ここにいる・・・」





***


「・・・驚いたな・・・サンチョ」

オジロンはそう苦笑しながら、やれやれと腰を下ろす。

「たった数分間の間に・・・何が起こったのやら・・・。」


あれほど荒々しく拒んで、嵐のように去った彼が、
再び姿を現した時には、瞳に強い色を浮かべ、力強い顔立ちに変わっていた。


――王位を継ぐ・・・


そう一言・・響かせて




「・・・だから言いましたでしょう?ビアンカ様にお任せしておけば・・・よいのだと・・」

そういうサンチョの顔はとても柔らかい・・・。


「それにしても、流石は親子・・・と言うべきか・・・あの眼差しは兄上・・・パパス王を見ているようだった」

オジロンはそう、懐かしい記憶に瞳を細める・・・。

「…良い子に育ってくれた…兄上とマーサ殿にお礼を申し上げたい・・・そしてなによりも・・・ビアンカに・・・」


その言葉にサンチョ深くは頷く・・・。
そして、眩い空を見つめ一言呟いた・・・。




「・・彼女は、本当に天使なのかもしれません・・・]



そう・・・



ずっと孤独でいた『彼』の心に暖かい灯りを燈し・・・・・
泣き声を上げ続けていたグランバニアに・・・・光を差し込んでくれた
そう きっと彼女は
天からの贈り物・・・





**




それから・・・数日後
王家の試練を無事に終えたリュカが帰還し、グランバニアは新しい『王』の誕生に歓声をあげる。
そして 続いた新たな奇跡に熱狂した。
新しい命が・・・グランバニアに誕生したのだ・・・。

グランバニア王 リュケイロムとビアンカの血を引く男女の双子であった・・。


第一王子 クラウド エルケル グランバニア
第一王女 アルマ エルシ グランバニア 


そう名づけられた新たな命を、人々は喜びと希望に満ちた歓声をあげて受け入れた・・・・






だが


時を同じくして、グランバニア歴史に刻まれる 悲劇が起きることになる





魔物による・・・―― 王妃誘拐



そして・・・それを追った 王の失踪・・・・だった




王が王妃を再びその手に抱くまで・・・


-・・気が遠くなるほどの歳月が流れることになる・・・








グランバニア国民は 口々に嘆き・・・神を呪った・・




『歴史はまた 繰り返すのか・・・・・・』と



だが人々はまだ知らない・・・

悲劇と共に、彼女が最後の『奇跡』を、ここに残していたことを・・・



第一王子 クラウド エルケル グランバニア



その額には 天空の勇者『ユリウス』の紋章が浮かびあがっていた・・・。






闇を打ち払う・・・・

唯一の『奇跡』の証として・・・・










END 






***

うちの双子の両親は こんな関係です


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