■キミ生まれ ボクは歌う■




暗く狭い部屋の大きなベッドの上に、二人の少年の姿があった。



「うわぁ・・すごく似合うよ栄口」



そうにこりと心底嬉しそうに笑って、


「やっぱり栄口には緑が似合うと思ったんだぁ」


うっとりと笑む彼の視線の先には、緑色のリボンが巻きついた 細い手首がある―――
まるで戒めように絡められたそれは、不器用ながらも蝶々結びにされていた。

――だがこの光景はあまりにも違和感があった・・・。
その証拠に鮮やかな緑色の先には、無骨な金属がちらりと覗く。―――それは無機質な手錠だった。
震える少年の腕が動く度に――カシャリッ・・・と金属同士がぶつかる冷たい音が響く―――。

そんな空気の中で、場違いと思えるほどに明るい声が続く。


「よかったぁ・・・売り切れなくて。
これ見た瞬間ビビッ!!と来ちゃったんだけど、その時財布の中¥200しかなくてさぁ・・・お金取りに一生懸命家まで走ったんだよ?」

えへへ・・と幸せそうに笑いながら 彼は少年に近づく…。
ぎしっ・・・とベッドが沈み、拘束された少年の身体が僅かに沈む・・・。

「あのね・・・このリボンどうしても栄口に付けてあげたかったんだぁ・・・」

そう・・一人満足したように頷いて…


「・・・うん・・・すごく似合う・・・すごく可愛いよ栄口・・・」



囁くと同時に彼は震える細い腕にそっと口付けた。
ちゅくっと吸うと・・・少年が息を飲む気配がした・・・。

それを感じて、とろりとした眼が愛おしげに笑み、問う。


「・・・どうしたの?なんで泣いてるの・・?」


――彼の視界に入った大きな瞳・・・。
その目尻は透明な涙で濡れていた・・・


「・・・もしかして・・・俺が怖い?」



彼は面白そうに問うた?


彼の問いに――少年は何も答えない…。
沈黙する少年の頬を撫でようとすると・・・ビクリっとその頬が緊張した。


それを見とめた彼が白けたような顔をした。


「・・・あっやっぱり俺が怖いんだ・・・ちょっとショックだなぁ・・・」


あ〜あ・・と頭を掻きながら、とろんとした瞳が少年を覗く。


「だって・・・俺は阿部と違うよ・・・栄口を殴ったりしないもん・・・それなのに『怖い』の?なんで?」


彼の問いに―――強張る顔は何も答えない―――いや、『言えない』のだ・・。

その小さな口は―――無慈悲な黒い猿轡で塞がれていたのだから・・。



・・・だって口を『自由』にしたら・・・聞きたくない事ばかり言う・・・
耳障りな名前と――望んでいない事ばかり 言いたがる…。

栄口の声は可愛くてとても好きだけれど―――痛くて切なくて心が壊れそうなことばかり言うから、今は何も言えないように塞いだ―――。

そうしたのは『彼自身』なのに――



「ねぇ?なんで?教えてよ 栄口」



彼は問い続ける―――答えられないと知っているのに・・・・。






―――彼は徐に長い指で少年の唇を撫ぜた…。
閉じる事の出来ない唇が彼の体温を感じ、悲しい魚のように震える。


「可愛い声で教えて・・・?俺の大好きなその声で・・・ね?」


彼はこれ以上ない程優しく微笑むのに、少年の顔は強張ったままだ。
優しく手を伸ばし、雛鳥を触るようにそっと包み込んだが、その皮膚は壊れそうなほどに張り詰める。

失われていく頬の温度…。触れると同時に張り詰める皮膚…。
毀れおちる涙―――噛み締められる唇…。

その全てが疑いようも無く『拒絶』を表しているのに、

彼の心は――――――ますます高揚していくばかりだった。


「・・・答えてくれないの?酷いよ」


言葉とは裏腹に、彼の口調は愛情が滲みでる。
くいっと顎を引き寄せ、とろりとした目が赤く濡れた唇をうっとりと眺めた。


「栄口の唇は・・・女の子みたいだね・・柔らかくてえっちで・・・・ああ・・俺・っ・・」



言葉を言いきらぬうちに、彼は飢えた獣のようにその唇に覆いかぶさる。
猿轡越しに与えられる容赦のない 口付け―――。

「大好き…大好き大好き――――栄口 」

彼の熱の籠った囁きと荒い息の中に、抵抗を許されない少年の哀しい鳴き声が混じった―――。





「―――栄口・・・・大好き・・・大好きなんだ」




徐に唇を離して彼は―――呟く…



「でも栄口は――――『俺の事好きじゃない』って・・俺はちゃんと知ってるよ」



大きな手が冷たくなった頬を撫でる―――。
そのとろりとした瞳に暗い感情が覗くのをみて・・少年の身体が今までにない緊張に強張った。







「栄口はさ・・・阿部が好きなんでしょ?」






―――逸らされる瞳が・・・
何よりも正確な答えを与えることに―――・・・きっと少年は気づいていない。




「やっぱりね・・・そうだと思った。」


ひやり――と温度が下がった声音…


「そうだよねぇ・・・阿部とならエッチもできるんだもんね・・・練習が休みの日は阿部と会ってるんでしょ?俺知ってるんだから」

先程まで柔らかかった声に―――皮肉気な刺が含まれる。



「そういう時は俺がメールしても返信してくれないし・・電話も出てくれないよね・・・・どーせ阿部がするなって言ってんでしょ?知ってるよ・・。
阿部は俺が栄口の事好きな事知ってんだもん・・だからワザと俺の前で栄口を誘ったり家に来るように言ったりするんだ・・・」


とろりとした瞳が―――黒く淀む。



「阿部って・・ほんとに酷い奴だよなぁ・・・。
俺が栄口の事好きで好きでどうしようもないの知ってて…そんな俺の前で栄口に約束させたりして・・・」




ぎりっと・・その唇が 憎々しげに言葉を吐く。





「俺・・・アイツの事大嫌い・・・」








不意に彼の大きな手が、細く白い首を捕えた。
くっと力を込められ、ひぅっと息を飲む微かな声を聞きとり 彼が笑う。



「ねぇ・・栄口…。今の俺のこと・・『怖い』って思ったでしょ?」


うっすら笑顔を浮かべながら、彼は問う。


「わかるよ・・栄口の事だもん。栄口って顔にすぐ出るんだ、嘘つけないんだよ?」


首に掛ってる手に力が加えられ 少年の唇からはくぅ・・と苦しげな音が漏れ、飲み込めない液体が伝う。
更に力を込められて、怯えた色が濃くなる―――。彼はそれをうっとりと見つめて囁く。


「そうだよね・・怖いよね?・・・俺自身もね・・・なんか俺ってヤバイ奴だぁな・・・って思うんだ・・。
そうでしょ?待ち伏せして スタンガンで気絶させて・・・こうして監禁して・・・栄口の自由も奪って 勝手にキスしたり エッチな事したりしようとしてるし・・」

クスクスと他人事のように笑って、彼はもう片方の手を 少年の左胸に当てる。

「うわぁ・・・・ドクドクいってるよ・・栄口の心臓…」

グッと抉るように爪を立てられ、少年がひぅ・・と声を漏らす。




「でも俺・・今すげぇ幸せなんだぁ」





とろりとした瞳が―――心から幸せそうに笑う・・・その顔に・・・囚われの少年の顔が恐怖に強張る。
目尻の涙は既に溢れて毀れ落ちた。
噛みしめる唇も恐怖に耐えきれずに震える。


そんな少年を優しく見つめて 彼は囁く・・


「大丈夫・・・心配しないで。――――もう『痛い』事はしないから・・・。」


冷たくなった頬をすぅ・・と撫でて、にこりと笑む。
だが 不意に―――あっ と思いついたように眼を細めた。

「―――・・でも・・・またオレの言うこと聞いてくれなかったら・・・・『お仕置き』しちゃうかもね・・・」


ビクッ・・と少年の身体が震えるのを見て、

悪戯っぽく笑い、 冗談だよ・・と彼は唇を歪めた。



「俺が栄口に『酷い事』するわけないじゃん!。大好きな人に『酷い事』はできないでしょ?」

くすくす笑って、彼は徐に少年のシャツのボタンを外していく。
少年の身体が眼に見えて強張る。
猿轡を噛みしめた唇が眼に見えて震える。


・・ああっ・と彼が歓びに呻いた。


「綺麗だね・・・栄口の身体・・・本当に」

つっと手を伸ばし、躊躇いなく肌に触れると少年の肌がビクビクとと動く。
「色白だよね・・・栄口は…。それに・・・細い腰だね・・?折れちゃいそう」
愛おしてたまらない・・と言わんばかりに、大きな手が肌を撫でる…。

「―――いいなぁ・・・好きだなぁ・・俺」






ぽつり・・・と呟いて。



「あっそうだ・・・。」


と、突如彼は顔を上げた。


「お姉さんにはメールしといたからね。だから何も心配しなくていいよ。・・今日は俺と一緒にいるって言ったら 『じゃあ勇人をお願いします』だって」

にこりと笑って持ち上げられたのは少年の携帯電話だ。

「栄口は『いい子』だもんね。家族を心配させないようにすごく気を使ってること オレちゃんと分かってるから」



―――でもさぁ――と徐に彼は瞳を細めた。




「栄口って・・・阿部とこんなにメールしてるんだね・・・。」



がらりと温度が変わった声―――。
勝手に携帯電話をいじりながら 彼は顔を顰めた。


「着信も―――阿部の異常に多いよね…―――俺と同じくらい…」


でもオレの場合は殆ど 不在着信だけど―――と彼はくすっと唇を歪めた。




「―――それにしてもさぁ・・・。阿部のメールってどうしてこんなに冷たいの?
絵文字も無いし改行もしてないしさぁ・・。――――しかもなにこれ・・・。
『今何してる?』
『どこに居る?』
『誰と一緒なんだ?』
・・・内容こんなんばっかりじゃん。
阿部って束縛強いよねぇ・・」


冷めた目で画面を見ていた彼が―――突如唇を歪めた。


「阿部のメール――目障りだなぁ・・・削除しちゃえ!」


微かな沈黙の後――


「はいっメールデータ―全てデリート!完了っと」




彼は満足げに笑んだ。


同時に・・ くつくつ・・と笑いだす。



「そうだ・・あとで阿部にメールしてやろうっと・・・。栄口の『エッチな画像』添付してさ・・・」


ねぇ?と同意を求める瞳は、とろりと濁る。


「あははっきっとアイツ驚くよ。ちょ〜びっくりすんじゃない?」


彼はそう心底面白そうに笑って―――






「・・・いつもあいつが『俺』にやってた事だもん・・・いい気味さ」






残酷に笑んだ―――。









――ねぇ栄口ぃ




優しく甘い――だがぞっとする冷たい声音で名を呼ばれ…囚われの少年の身体が小刻みに震える。

だが 抵抗も反抗も許されないまま―――その大きな腕に抱き寄せられる。

恐怖に見開かれ涙が溢れるその瞳は、 彼以外移すことが許されない―――。











「大好きだよ・・・大好き・・・全部好きだよ」




そう心から微笑んで 彼は囁く。



「いろいろ『酷いこと』してごめんね・・・。でも―――今日はどうしても一緒に居たかったんだ・・」





言葉を切り、彼は満面の笑顔で微笑む。






「――――だって今日は…栄口の誕生日だもん・・・」






心の底から優しく、嬉しげに微笑んで 心から溢れる祝いの言葉を告げる。








「栄口がこの世に・・・俺のいる世界に生まれてきてくれた日なんだもん・・・」





止めどなく溢れるこの想い―――どうか君に届いてほしい。






「だから俺―――どうしても栄口と一緒にお祝いしたかったんだ」





好きで好きで―――好きでたまらなくて…。





「もちろんケーキも買ったからね。栄口の大好きな生クリームのケーキだよ。一緒に食べようね」





それでも振り向いてくれなかった大好きな君――――







「ハッピーバースデー栄口・・・・俺のいる世界に生まれてきてくれて 本当にありがとう」









―――でも  想い続けるのは自由だから・・・。


例え君が オレを見てくれなくても―――この想いを捧げるのは 自由 だから・・・



溢れるこの想いを―――君に全部あげる






今日は―――神様がこの世界に君を与えたくれた――――世界で一番大切な日…。






だから誰にも邪魔させない。




この大事な大事な時間を―――他の人間と過ごすことなんて許さない――。


だって・・・





―――君は俺の全てで・・・
オレの世界の中心で―――
君が居ない世界なんて―――俺にはあり得ないから―――




だからこうして―――強引に君を繋ぎとめる―――










泣きじゃくり悲鳴に似た抵抗の声が聞こえたけれど、

それすらも愛しく聞こえる自分は―――


もう取り返しが付かないほどに―――



―――――狂ってる








「―――愛してるよ栄口――――」






そう 残酷なほどに優しく囁いて








君をこの腕に閉じ込める






泣き叫ぶ君の耳元で



オレは





ラブソングを歌うよ





END








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